20 観念するしかない
正に、衝撃の告白。
まさか、目の前の美少女が、あのジョアン君だったとは。
見た目には、どう見ても女性であるようにしか見えません。
なるほど、そのために松里家君と交流をしていたのですね、と納得する部分はあるものの。しかし、混乱というか、ショックが収まりません。
「えっと、松里家君」
「どうしましたか?」
「ジョアン君は、その、松里家君と同様に、女装をしているという認識であっていますか?」
「ふふふ。そう思うでしょう。しかし! 実は違うのです!」
松里家君は自信満々に、堂々と今回の『施術』について語ります。
「私がこの身体を手に入れるために試行錯誤した様々な技術をベースにして、さらに新たな魔法陣も無数に考案し、組み合わせた結果! なんと! 男性を完全な女性へと性転換する魔法が完成したのです!」
自信満々に、松里家君は言いました。
しかし、その内容は、私にとってはトドメの一撃となりました。
要するに。ジョアン君は私と結婚する為に、性転換までしてしまったのです。男としての人生を捨て、女として生きる道を選んだのです。
それは、私のためにジョアン君の人生を歪めてしまった、とも言えます。
「ちなみに、ジョアン君を元の性別に戻すことは?」
「残念ながら、男性から女性への性転換魔法は完成しているのですが、女性から男性への性転換魔法は未完成です」
「な、なるほど」
つまり、ジョアン君は男性に戻ることすら出来ない、と。
これは、取り返しのつかないことになってしまいました。
「ねえおっちゃん。それで、どうかな? 俺、ちゃんと可愛くなったと思うんだ。今の俺なら、おっちゃんと結婚出来るよね?」
不安そうに言うジョアン君。その真剣な、切実に私との結婚を願う声色に、心が痛みます。
「少し待ってください、ジョアン君。その返事は、今すぐするわけにはいきません」
「結婚、してくれないの?」
「いえ、そういうわけではないのです」
と、いいますか。ここまでジョアン君の人生を歪めてしまった以上、何らかの形で責任を取るしかありません。
まさか本当に性転換をするとは思っておらず、過去の私は迂闊なことを言ってしまったようです。そのせいで、ジョアン君は性転換してしまった。
そもそも、この状況下でジョアン君を拒否してしまえば、彼の、いえ、彼女の人生は、選択は全くの無駄であったということになりかねません。
それは私としても望むところではありませんからね。どうにか落とし所を考えなければなりません。
混乱が収まりませんが、一度深呼吸をしてから、改めてジョアン君に語りかけます。
「いいですか、ジョアン君。私はですね、ジョアン君の他にも、責任を取って結婚しなければならない女性が何人もいます」
「それは知ってるよ。勇樹ねえちゃんから聞いたもん」
「でしたら、話は早いですね。その方々を放っておいて、ジョアン君とだけ結婚する、というわけにはいかないのです。理由は、優しいジョアン君であれば、分かって頂けますね?」
私が言うと、ジョアン君は悲しそうな表情を浮かべて頷きます。
「うん。もし俺が、おっちゃんに結婚してもらえなくて、なのに他の女の人と結婚してるのを知ったら悲しいよ」
「ええ。そういう意味では、私はすでに有咲と先に籍を入れています。すでに、皆さんに悲しい思いをさせてしまっているのです。これ以上、悲しませるというのは本意でありません」
「じゃあ、おっちゃんはどうするの?」
そう言われて、私はいよいよ覚悟を決めます。今まで先延ばしにしてきた問題を、ようやく片付ける時が来たのです。
「全員と、結婚します。ジョアン君も含めて」





