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16 魔導車




 三人が新たな商品の開発を初めてから、半年後。とうとう、その全貌が明らかとなりました。

 その商品の名前は『魔導車』なんと、魔力で走る自動車のようなものでした。


 ただし、現代日本で見るような鋼鉄製の自動車ではありません。既存の馬車を改良し、馬を繋がずとも自走するように開発した車両です。

 実は、これと似たような構造の魔道具はすでに存在しているそうです。馬の代わりにゴーレムを牽引に利用したゴーレム車というのがあるのだとか。


 しかし、これにはいくつかの問題があり、一般には使われていません。

 まず、必要な魔力が膨大であること。かなりの魔力の持ち主でなければ、ゴーレムを一時間動かす程度で精一杯。到底、馬の代理品とはなりえません。

 また、非常に高額です。ゴーレムは人造品ではなく、ダンジョンから捕獲し無力化したものを改造して利用している為、量産にも向いていません。


 こうした理由から、ゴーレム車は一部貴族の趣味程度でしか扱われていないものだったそうです。

 また、一部の高ランク冒険者も、このゴーレム車を実際に所有しています。優れた魔力の持ち主がパーティに所属している為、長距離移動に利用していることもあるそうですが。


 ともかく、そうした理由から普及しなかったゴーレム車。ただ、馬を使わず人間が操作するだけで動く馬車、という発想はすでに存在していました。

 そうした知識を持っていたシャーリーさんとマリアさん。この二人が、有咲が新たに得た魔導機器の知識についての話を聞き、アイディアを思いつくことになりました。


 それが魔導車です。ゴーレムを使わず、そもそも馬車自体を自走させるような構造にしてしまえばよいのでは、という単純な発想。

 しかし、馬車は馬が引くもの。車は誰かが牽引するもの、という固定概念があったこの世界の人には、なかなか出しづらいアイディアです。


 一方で、マリアさんとシャーリーさんは有利な立場に居ました。有咲や私の話を通して、現代日本の文化、知識について僅かながらも聞き覚えがあったからです。

 その中には高速で自走する鋼鉄の車、要するに自動車についての話もありました。

 そうした僅かな聞き覚えの知識をきっかけに、ゴーレム車の知識と繋げて、魔力で自走する馬車というアイディアに思い至ったそうです。


 有咲も当然、自動車の有用性については理解しており、三人はすぐさまこのアイディアの実現に向けて行動を開始しました。人脈やツテを使い、馬車の本体を製造している人を集め、制御部の魔導回路は有咲が設計。

 そうして何人もの人間を巻き込み、魔導車のプロジェクトは進んでいったそうです。


 有咲も回路については素人であった為、時には手探りで、時には私に教わりながら、少しずつ魔導車の回路部分を完成させていきました。

 この学習過程でも、どうやらカルキュレイターが役立ったようです。知識さえ手に入れてしまえば、答えを理解するのは難しくはなかったようで、有咲はみるみるうちに知識を吸収。簡単な回路なら、すぐに自分で設計できるレベルまで到達しました。


 そうした好条件がいくつも揃った結果。魔導車という新たな製品は、無事完成することになったのです。



「これが、その完成した魔導車ですか」


 私は有咲、マリアさん、シャーリーさんの三人に連れられ、工場の敷地内にある倉庫の一つへと案内されました。

 そこにあったのは、すでに魔導車の完成品。塗装などはまだなものの、実際に乗って動かすことの出来るレベルまでは仕上がっているのだとか。


 外見は、ごく普通の四輪馬車と同様のものでした。ただ、馬を繋ぐための機構は付いておらず、操縦席にも屋根と扉がついています。

 また、底部に機械的な構造が集まっている様子で、通常の馬車よりは分厚く大型の下半身になっています。


「動力は二つあって、人間由来の魔力と、蓄光魔石由来の魔力のハイブリット型になってるんだよね。だから天井には蓄光魔石の板が張ってある。操縦席にも屋根がついてるのはそれが理由の一つかな」


 言って、有咲はぽん、と軽く魔導車の車体を叩きます。


「一般的な魔力の持ち主だと、自分の魔力だけで三時間ぐらいは走らせることができる。で、蓄光魔石が蓄えてくれる分で、晴れてると十五時間。雨天なら八時間ぐらいになるね」


 その説明に頷き、私も魔導車に近づいて構造を確認します。


「なるほど。蓄光魔石も組み合わせて、動力問題はカバーしてるんだな」

「うん。こいつってさ、太陽光発電みたいに天気悪いからって発電出来ない、みたいなことにならないからさ。動力源としてやっぱり便利だった」


 有咲の言う通り、蓄光魔石は太陽光発電とは違い、太陽光そのものが変換されているわけではない為、雨天時でも魔力を集める効率はそこまで落ちません。

 ですので、恒常的なエネルギー補給源としては正直言って選択の余地が無かったでしょうね。


「で、魔力の蓄積量は最大で五十時間分ぐらい。万が一、魔力が切れて、夜に走らないと行けない状況になっても、操縦者の魔力で走れるようになってる」

「夜に魔物が襲ってくることも少なくないからな。それなら安全だ」


 言いながら、私は他にも魔導車の様々な部分を観察し、確認していきます。よく設計されており、汎用性も高く、車両の形を変えれば貨物輸送車としても使えそうです。

 だからこそ、工場の業務効率も上がるというわけですね。

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