15 同時進行
地球で使われている、コンピューターの部品の一つ『CPU』。これは、非常に小さなトランジスターで出来ている代物です。
なので、魔素を利用してトランジスターと同様のパーツを設計することに成功すれば、CPUの再現も可能になる、というわけです。
ただし、その為にはいくつか課題があります。
特に大きな課題として、実際に小型化する上での技術力の限界、というものがあります。CPUとして使われているものはマイクロプロセッサと呼ばれる、本当に微小のトランジスターが何億という単位で集まっているものなのですから。
現在のこの世界の技術力では、到底実現不可能です。
そこで私は、段階的なCPUの作成、という形でこの問題を解消することにしました。
現代の技術で製作可能なCPUを作り上げ、それを用いて工業技術を刷新。高まった技術力を応用し、さらに高度なCPUを作り上げる。
といった手順で、少しずつ技術力を高めながら、より高度なCPUを作り上げていくのです。
幸い、私は大学時代に学んだ知識のお陰もあり、大雑把ではありますがどのような歴史を経てマイクロプロセッサというものが進化していったのかを知っています。
それに倣うことで、一歩ずつ着実に進んでいくことが可能になります。
そうした理由もあり、魔導トランジスタの完成後は、ひたすらマイクロプロセッサを制作する為に奔走する日々が続きました。
魔道具店や商品を作る工場についてはすっかり他の人に任せっきりとなり、私自身はマイクロプロセッサ制作の為の新たな施設を作り、そこに籠もる日々が続きました。
時には必要な素材を集めるために出張することも、人手が必要な為に従業員を増やすこともありました。
この日も同様で、新しく稼働させる工場の為に新しい従業員を雇おうと奔走していました。
その際、工場内をあちこち見て回っていたのですが、一角でよく見知った三人が集まっているのが見当たりました。
「有咲。マリアさん、シャーリーさん。三人集まって、何をなさっているんですか?」
そう。ちょうどそこに集まっていたのは有咲、マリアさん、シャーリーさんの三人です。普段はそれぞれの仕事の為に工場よりも魔道具店の方で見かけることの多い三人です。
それが工場で、三人同時に集まっているというのはかなり珍しい光景でした。
「あ、雄一。今ね、シャーリーさんとマリアさんに手伝ってもらいながら、新しい商品のアイディア出しをやってるとこ」
「へえ、そうなのか。ちなみに、どんなものを作るつもりなんだ?」
「それはまだ秘密」
言って、有咲はいたずらっぽく笑いました。
「まだアイディアを出し始めたばかりですからね。形になったら、乙木さんにもお見せしますよ!」
「なるほど、それでは楽しみに待っておきますね」
楽しげに言ってみせたのはシャーリーさん。様子から察するに、どうやらかなり良いアイディアがまとまっているようです。
「一応、この商品が完成すれば、魔道具店だけではなくて工場の方でも業務効率を上げる為に使える予定ですから。楽しみにしていてくださいな」
「ほう、そうなのですか」
マリアさんの発言から、どのような商品を考えているのか想像してみます。
が、到底思いつきません。商品になり、かつ工場の業務効率まで向上させる代物。そして、三人が協力して開発するようなもの。
まるで想像がつかず、つい苦笑してしまいます。
「まるで分かりませんね。これは、完成を楽しみにする他無いようです」
こうして、私が魔導コンピューターの開発を進める傍らで、有咲、マリアさん、シャーリーさんの三人による新たな魔道具の開発も同時進行していくことになるのでした。
投稿期間が空いてしまい、申し訳ありません。
これからもこうして本文の見直し、修正等で投稿の間隔が長くなる場合があるかと思いますが、なにとぞ宜しくお願いいたします。





