14 そしてデジタルへ
私はダイオードの詳細について、有咲に説明をしてゆきます。内部にどのような構造があって、どのような機能を有しているのか。
これを一通り説明し終えると、次の素子の紹介に入ります。
「さて、次にいこう。こっちに色々と用意してあるのが、電子回路におけるコイル、インダクターの持つ機能を再現した素子だ」
「なんか、いっぱいあるじゃん?」
有咲の言う通り、私は形も様々な素子をいくつも提示しました。
「どうしても、コイルそのものを魔導回路で再現するのは難しかった。だから、ちょっと工夫をさせてもらって、コイルが持つ機能ごとに代用となる素子を用意したんだ。例えば、これが共振回路に使う為の素子で、こっちがフィルタ回路の為の素子。基本的には、幾つかの素材と構造、それに魔法陣で成り立っているから他の素子よりも一つ一つが大きめだ」
「ふーん、でもダイオードよりはちっちゃいんだな」
有咲は、私が提示した素子を観察しながら呟きます。
「そうだな。ダイオードの場合は、こういった代用素子が幾つも組み合わさったものだからな。正確には、ダイオードの機能を持つ魔導回路だとも言えるんだよ。だからダイオードはどうしても大型化してしまった」
この辺りの、サイズの問題は後々解決していくこととしています。今はひとまず、素子を完成させることが第一でしたから。
「そしてこいつが最後で、一番の目玉。『魔導トランジスタ』だ」
最後に私は、一つの小さな部品を手にして説明をします。
「作るのに一番難航して、実は開発時間の半分ぐらいは費やすことになった。けど、その甲斐もあって満足行くものが仕上がったよ」
本来のトランジスタの機能は、大きく分けて二つ。スイッチングと、電流制御です。これを魔導回路で再現するのは、どちらも簡単ではありませんでした。
特にスイッチングの機能は、とある理由から微細なサイズでも再現可能にしなければなりませんでした。
そこで考えたのが、付与魔法によりスキルを付与した素材を組み合わせるという方法です。
スイッチングの為に必要なのは、一方の回路に流れる微細な魔力のオンオフで、もう片方の回路に流れる魔力のオンオフを切り替えるような性質です。
その為には、魔力に応じて魔素抵抗、魔力圧抵抗が変化するような性質をスキル付与にて生み出さなければなりません。
「最も重要なスイッチング機能は、ドラグナイトの性質がスキル化したもの、『魔力反射』を応用したんだ。これを素材に付与して、十分な魔力が流れる時にスキルが『機能しない』ようにした。逆に、魔力が流れていないときはスキルが発動して、魔力反射が発動する」
この付与を成立させるための魔法陣と、必要なスキルの組み合わせ、そして素材の選定に大半の時間を費やす結果となりました。
ですが、その甲斐もあって、将来的に加工技術が発展することでナノメートル単位まで小型化することも可能なものとなりました。
「じゃあ、これがあれば『アレ』が作れるってわけ?」
有咲が、興味深そうにしながら尋ねます。私は頷き、答えます。
「ああ。この魔導トランジスタがあれば、アナログ回路からデジタル回路へ。論理演算も可能な電子機器、じゃなくて『魔導機器』の開発が可能になる」
その答えを受けて、有咲も頷きます。
「なら、もう少しだね。雄一の目標達成まで」
「そうだな、カルキュレイターの力があれば、きっと上手くいくはずだよ」
そうして、私はようやく目的のものの名前を口にします。
「ずっと作りたいと思っていた『魔導コンピューター』。その完成まで、この調子で頑張っていこう」
「応援してるからな、雄一」
有咲は微笑み、私の手を握ってくれました。その手を握り返し、私はより一層、この目標を達成させたいと強く思いました。
私と有咲の未来の為にも、そして私の諸々の事業の為にも。魔導コンピューターの完成に向けて、頑張っていきましょう。





