11 魔素力学
私の話を受け、考え込むシュリ君に、さらに次の話を振ります。
「そこで、今日はシュリ君にお願いがあって来たのです」
「ふむふむ、なるほど。そこで話が戻るわけなんだね、オトギン?」
「はい」
私は頷き、ようやくシュリ君に今日の本題を伝えます。
「私が語ったのは、あくまで仮説に過ぎません。この仮説を証明するための実験を、おまかせしてもいいでしょうか? そして可能なら、具体的な数値、数式についても定義していただけると助かります。そうすれば、付与魔法の魔法陣がさらに効率的になりますので」
「そういうことか。なるほどね。でも、それはボクにタダ働きをしろってことかな?」
「いいえ、違いますよ」
シュリ君のからかうような言葉に、私は首を横に振ります。
「今回の発見、仮説に関する研究、そして論文ですが。私とシュリ君の共同研究ということで発表しましょう」
その言葉に、シュリ君は目を点にして驚きました。
共同研究。つまり、実験を任せた、というだけではなく、この革命的な発見をしたのが、私だけでなくシュリ君の手柄にもなるということです。
「オトギン、それ、本当にいいの? ボクも発見者の一人、なんてことになったら、オトギンが手に入れるはずだった利益、名声、あらゆるものをボクに譲り渡すことにもなるんだけど」
「そう言ってくれるシュリ君だからこそ、共同研究にしたいのです」
私は正直に、感謝の言葉を伝えます。
「今まで『師匠』には、色々とお世話になってきましたから。これぐらいで恩返しになるのなら、安いものです」
「お、おとぎんっ!」
瞳をうるうるとさせながら、シュリ君は私に抱きついてきました。
「ボクは、ボクは本当に、君みたいな優秀で優しい弟子を持てて幸せものだよっ!」
「あはは、そう言っていただけると弟子冥利に尽きます」
「しかも冴えないおっさん顔でボクの性癖どストライクでちんちんも馬並みだしっ!」
「あの、それは関係ありますか?」
どうも話が突然それ始めたので、ツッコミを入れて軌道修正します。
「ともかく、話は分かったよ! 実験なら、オトギンよりもボクの方が経験もアイディアも勝っている自信があるからね。ドンと任せてちょーだいな!」
「はい、信頼していますよ、シュリ君」
こうして、無事私はシュリ君に『魔素』についての研究を任せることが出来ました。
そしてこの魔素についての研究、理論については、今後は『魔素力学』と名前を付け、呼ぶことに決まりました。
カルキュレイターはあくまでも知識の中から解を得るスキルですからね。私の知識にない、仮説を証明するような実験の組み方、やり方なんてものはどれだけ考えてもわかりません。
だからこそ、こういう時はシュリ君のような専門家に任せるのが一番なのです。
その後、この日はシュリ君とさらにいろいろなことを話してから、魔道具店の方へと帰りました。
特に、魔素力学の証明が完了した時の展望について。魔素力学が正しかった場合、私がこれから何をするつもりなのか。
そんな話をシュリ君として、しっかりと今後のプランについての意識を共有しておきました。





