19 付与魔法使いのおっさん旅立つ
シュリ君から付与魔法を習い、私はいよいよ王宮を出ていく準備を整えました。
付与魔法と魔法陣の似ている回復魔法、支援魔法についても軽く学び、簡単な最低限のものだけは使えるようにもなりました。
ただ、魔力がほとんど無いので一日に一回使えば終わりといった感じですが。
一方で付与魔法は効率が良いらしく、なんと一日に十回も付与できます。
シュリ君には、物質へのスキル付与が一日十回しか出来ない奴なんて初めて見た、とかそういったことを言われていましたが。
何にせよ、私は二日かけて魔法を学び、これからの生活の目処についてもおおよそ立てることが出来ました。
なので、今日はいよいよ旅立ちの日です。
静かに身支度をすませ、最低限の道具だけを王宮に用意してもらい、それを袋に詰めて背負って出ていきます。
特に親しい人は勇者たちの中にもいませんから、見送りが無いのは当然です。
そうしていよいよ、王宮の門を潜ろうとした時でした。なんと、門の前で誰かが道を塞ぐように立っています。
「えっと、シュリ君?」
「やほーオトギン!」
立っていたのは、シュリ君でした。見送りに来てくれたのでしょうか。だとしたら、嬉しいです。王宮を離れてしまえば、もう二度と会うこともないでしょう。なのに私を見送ってくれるというのは、それだけ私との出会いを大切に思ってくれている証拠です。
ついつい、シュリ君の頭に手をおいて撫でてしまいます。
「でへへ、オトギンは撫でるのが好きだねぇ」
「はい。シュリ君を撫でるのは好きですね」
そうして、一分か二分ぐらいはシュリ君の頭を撫でていました。
しかし、さすがにいつまでもこうしているわけにはいきません。私は手を離して、シュリ君と向かい合います。
「ではシュリ君。この二日間、お世話になりました。教わった魔法を活かして、王宮を出てからも上手くやっていこうと思います」
「うん、頑張ってね。オトギンはボクの数少ない弟子なんだから」
「弟子なんですか?」
「そういうことにしといてあげるよ?」
「ありがとうございます」
肩書があるといういのは、どこかで役に立つ機会があるかもしれません。ありがたく頂いておきましょう。
「さて、オトギン。ボクがわざわざここに来たのは、実は見送りのためだけじゃないんだ」
「そうなんですか?」
「うん。実はオトギンに餞別をあげようと思ってね」
言うと、シュリ君は背負っていた背嚢らしきものを私に手渡してきます。中には多少物が入っているように見えますが、妙に軽く感じます。
「まず、この背嚢はアイテム収納袋っていう魔道具なんだ」
「魔道具、ですか」
魔道具については、時間が足りずにあまり大図書室でも調べることが出来ませんでした。なので、私の知識としては薄い部分です。
「この袋の中には、見た目よりも沢山のものが入る。そうだね、このレベルだとせいぜい一人用のお風呂の湯船と同じぐらいの容量になるかな?」
「けっこう入りますね」
「そうでもないよ。一般的な収納袋はこの三倍から五倍ぐらいは入るから。餞別用の、オトギンにあげてもこっちが痛くないやつだからね。性能は微妙だよ」
自分で自分の用意した餞別を語るとは。シュリ君はやはり、変なところがありますね。変わった子も嫌いじゃありませんよ。
と、そこまで考えて思い直します。シュリ君は子供ではありません。この見た目で勘違いしてしまいますが、立派なご年配の方です。子供扱いはいけませんね。きちんと敬いましょう。
「ん、急にまた頭を撫でてどうしたのオトギン?」
「シュリ君を敬っております」
「そっかそっか。ボクを敬いたまえ~」
と、話が逸れてしまいます。