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27 迷路の中でつかまえて




 私と有咲は王都を出て、それでもまだ駆け抜け続けました。気の向くまま、思うままに走り抜けていくと、気がつけば王都周辺の森の、どことも知れない泉のほとりまで到達していました。

 誰の目も無い場所まで来たので、ようやく私は立ち止まります。


 そのまま有咲を降ろして、二人で手をつないだまま泉のすぐ側まで歩み寄ります。


「アタシ、ずっと迷ってたんだ」


 有咲は、感慨深そうにしながら語り始めます。


「どうすればいいのか、分かんなかった。初恋の雄一お兄ちゃんと一緒に生活して、このまま結婚までいくのかな、って漠然と思ってて。でも拒絶されて、なにも分かんなくなってさ。迷路の中に居るみたいな気分だった」


 どうやら、有咲は自分がどういう心境だったのかを語ってくれる様子。私は、その言葉を一字一句聞き逃さないよう、耳を傾けます。


「自分じゃ自分の幸せを見つけられなくって。雄一が見つけてくれた、アタシのスキルの使い方に頼って、ずっとどうすればいいのか決めて、決めて、決め続けて。それで、最後に選んだのがルーズヴェルト侯爵様と結婚するっていう道だった」


 今なら分かります。有咲がそのような選択肢を選んだ理由。私が愚かだったから。有咲のスキルまで巻き込んで、大きな間違いを侵すことになったのです。


「きっとそっちにゴールがあるんだって。アタシの幸せはきっと、雄一の為になることだって。そう思って、ずっと進んできた。今日まで、婚約披露宴まで頑張ってた。でも、結局迷路の終わりなんか見えなくてさ。アタシは、迷ってるままだった」

「有咲」


 私はただ聞いているだけのことができず、つい言葉の途中で割り込むように名前を呼んでしまいます。そして有咲の背中側に周って、肩から抱きしめます。

 そんな私の手に、有咲は優しく手を重ね、語り続けます。


「そんな時にさ。雄一は来てくれた。どっちに行けばいいのか分からなかったアタシを、迷路の中でつかまえてくれた」


 有咲がそう言ってくれる。その事実が、私の胸に今こうしていて良かったのだ、という安心感と幸福感を生みます。


「急にさ。光が見えたような気がしたんだ。もしかしたら間違った道かもしれない。出口まで行けないのかもしれない。でも、アタシ、幸せだよ。雄一が隣で、手をつないでいてくれるから。迷路の中でも、温かい光が胸の中にある。だから怖くない。もう迷わない。アタシは、アタシの為に、ずっと雄一と一緒にいる。雄一のことを愛してる」


 ぎゅっ、と有咲の手が、私の手を強く握りました。

 それに応えるように、私も語ります。


「俺も。有咲を愛してる。ずっと言い訳ばっかりしてきた。屁理屈ばっかり言ってきた。正直じゃなかった。でももう嫌だ。有咲は俺のものだよ。俺が世界で一番、有咲を愛してるよ。誰にも渡したくない。ずっと一緒にいたい。だから攫いに来たんだ。俺は、俺の為にもう迷わない。有咲の手を引いて、死ぬまで一緒に歩いていきたい」

「うん、うんっ!」


 有咲は頷き、震える声で相槌を打ちます。恐らくは、泣いているのでしょう。

 私もまた、無意識のうちに涙を流していました。


「ごめんな、有咲。俺が馬鹿だったから、すごく悲しませたよな。多分、これからも有咲のこと悲しませると思う。でも、俺は馬鹿だから、それでも有咲とずっと一緒にいたいよ」

「いーよ、そんなの許してあげる。雄一が世界で一番格好悪くて、世界で一番ダサくったって、アタシは雄一の隣がいい。わがままだって言うよ。今までみたいに、めちゃくちゃなこと言って雄一のこと困らせちゃうよ。でも、アタシだって馬鹿だから、それでも雄一と一緒がいいんだよ」


 互いの気持ちを確認しあうと、自然と次にしたいこと、するべきことは理解できました。


 私と有咲は一度離れ、向き直り、そして互いに見つめ合います。


「有咲」

「雄一」


 愛してる。

 その言葉を同時に言った後は、最早言葉など不要でした。


 私は有咲を、有咲は私を強く抱きしめ、そして互いの唇を近づけてゆきます。

 堰を切ったように、勢いよく、二人揃って貪るような深い口付けを交わします。


 やがて口付けだけでは我慢の効かなくなった私は、有咲を抱きしめたまま、優しく二人で倒れ込みます。

 そのまま転がって姿勢を変え、私が有咲に覆いかぶさるような格好になります。


 何をするつもりなのか。自分がどうなってしまうのか。有咲は理解している様子で、むしろ早く、と急かすような、悩ましげな表情でこちらを見つめてきます。


「きて、雄一」


 それが、合図となりました。



 そうして私と有咲は、名も知らぬ泉のほとりにて。

 互いを深く理解し、愛し合い。

 消えない愛の証を刻み込むようにして、繋がり合いました。

これにて、第六章は完結です。

ここまでお読み頂き、本当に有難うございます。読者の皆様には感謝してもしきれないと本心から思っております。


少しだけ裏話のような話になりますが、当初はこの作品はここで完結させるつもりで書き始めました。

しかし読者の皆様が様々な反応を下さり、私が想定していた以上のものをこの作品から読み取り、そして数字という形も伴い期待していただけたお陰で、それに応えたいという気持ちを抱くようになりました。


ですので、ここでヒロインの有咲とは無事ゴールを迎えましたが、乙木雄一の物語はまだまだ続けていきます。

そのためにも、様々な設定や、今後の物語に繋げるための布石を用意してきました。

既に作中で、かなり後の展開に影響する設定も登場しております。


これから乙木雄一が進む道を、そして当作品が紡ぐ物語をどうか楽しみにお待ち頂けると幸いです。


続きがいつごろからの投稿になるのかは分かりませんが、プロットはかなり先の展開まで用意が済んでありますので、あとは書くだけです。

継続的に投稿が可能な程度の文章量が仕上がりましたら、また投稿を再開致します。



それでは、最後にもう一度。

ここまで物語を書き続けることが出来たのは、読者の皆様の応援があってこそです。

本当に感謝しております。ありがとうございました。

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[良い点] とりあえず結婚で決着付いたのはめでたい。 で、さすがにこれ以降は一皮剥けて、もう「私が引くのがベストなのです~」とか「私ごときが~」とか「日本の法律では~」とかイライラする常識人プレイは…
[良い点] オッサンがキモ過ぎてホラー感覚で読んでた 最初はガワとか性癖とかギャグ感覚で楽しんでたけど ちゃんと心の底までキモい存在で戦慄した すごい
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