25 まるで将棋
私の首に剣を添えたまま、金浜君は言います。
「どうします? さすがに本当に俺が勝っちゃうと問題があるので、ヤラセとかで決着を付けるのもアリかと思うんですが」
「そうですね。そうしてくれるとありがたいとはおもうのですが、うーん」
私はそんなことを言いながら、露骨なぐらいわざと時間を稼ぎます。
「しかし、金浜君。少し勘違いをしていませんか?」
「え?」
「これは殺し合いではなく決闘です。見届人、そして観客の皆さんが見えていない今、決着はまだついていませんよ」
「まあ、それはそうですけど、土煙が収まったらさすがに俺の勝ちですよ」
「ええ。このまま何事も無く終わるのであれば」
そこまで言って、ようやく私の最後の一手の準備が終わりました。
次の瞬間、私は最後のスキルを発動します。
私の自傷ダメージによる負傷。それにより飛び散った血液。これらの中にほんの一滴混ぜた詛泥。場を球状に覆う三森さんの結界。そこにまで付着した、私の血液たち。
これらの要素。そして土煙の中を辛うじて真っ直ぐ進むことの出来た、わずかな光のみを見逃さず見ることの出来る非常によく成長した『夜目』のスキル。それにより完全に把握できた位置関係。金浜君の立ち位置。私の立ち位置。そして血液の付着した場所。
全てを把握することで出来る、最後の一手。
私は、それらの血液を対象に『鉄血』を発動。わずかに含まれる詛泥のお陰で、飛び散った後の血液まで私の身体の一部と接触していると判定され、鉄血スキルが発動可能に。
そして生み出したのは、ダークマターフレシェットとほぼ同じ構造の物体。ただし素材はオリハルコン製。血液の一部を包むようにして筒を生成。筒の後端は杭のような構造にして、土や結界に突き刺さって抜けないように。筒の開放された前端を塞ぐ針と血液の間を直接オリハルコンの糸でつないだ状態に。
そして、筒に包まれた血液を『自爆』スキルで爆発させます。
オリハルコンフレシェットから針が飛び出し、金浜君に当たらないギリギリの範囲を無数に飛び交います。金浜君には危険が迫っていないので、感知は出来ていないはずです。
そして、オリハルコンの針にはオリハルコンの糸がつながっており、これは筒の内部に付着した血液から伸びています。
結果、金浜君の身体は無数の糸によって包囲されてしまう結果となりました。
「これは、何をしたんですか?」
「大したことは。金浜君を傷つけることなど到底できないような、ただの頑丈な糸で周囲を包囲させていただきました」
その結果、どうなるか。
私は次の瞬間、素早く後方に飛び退きつつ小規模な『自爆』を腹部で発動し、その衝撃も利用して距離をとります。
当然、これを追いかけるために金浜君は勢いよく、強く踏み込んで前に出ます。
すると張り詰めたオリハルコンの糸が引っ張られ、結果として杭のように周囲に突き刺さっていた筒と針、それぞれもまた引っ張られます。
張力が限界に達すると、針や筒は地面や結界から引っこ抜けます。
そして無数の糸は金浜君の身体を支点に引っ張られた結果、両端の重りとなっているオリハルコン製の針と筒が、別々の方向に回転するように動き、糸と糸が次々と絡まっていきます。
結果、金浜君は自身を傷つけるはずもないオリハルコンの糸により、身体をあちこちを絡め取られてしまいます。
「くっ、でもッ!」
「させません!」
金浜君は瞬時に状況を悟り、オリハルコンの糸を切断しようと不自由な身体を上手く使い剣を振り上げます。
ですが、当然これもまた予想済みです。
瞬時に私は『詛泥』と『瘴気』を発動。金浜君の周囲を包むことでオリハルコンの糸は汚染され、ダークマターに変貌。そして詛泥と触れ合うことにより『鉄血』スキルの効果で形状を変化。より太く頑丈な糸にすることで、金浜君の剣では切断することが難しくなります。
当然、一太刀で数本の糸は切断されてしまいますが、それはご愛嬌。残った糸が太くなり、スキルの効果で端から収納していくことで張力も強めて、より強く雁字搦めにします。
結果、金浜君は完全にダークマター製の鉄線により拘束されることとなってしまいました。
「なるほど、この状況をずっと作ろうとしていたわけですか」
金浜君は納得したように呟きます。
「どうでしょう。逃げられますか?」
「正直に言えば、どうとでも。ですが、余波で沙織の結界まで破壊するか、国から貰った希少な魔道具を使い潰す必要があります。どちらも決闘でやれる手段じゃありませんね」
「でしょうね。常識のある、善意に溢れ性格の良い金浜君なら、そう判断してくれると踏んでいました。なりふりかまわず勝ちにくる可能性は低かった。ですから、こうして状況、決闘の動機まで計算した搦め手を使わせていただいたわけです」
私がなぜこうしたのかを説明すると、金浜君は愉快そうに笑いました。
「はは、それはまた、すごいですね。まるで将棋やチェスみたいだ。使える駒を使って、攻め手一つ一つで相手をコントロールして、盤面を支配して最後の最後に自分の勝ちまで持っていく。最初から、乙木さんはこういう勝ち方をするつもりでいたわけですか」
「ええ、まあ一応」
私と金浜君がそうこう言っているうちに、次第に土煙は収まっていきます。
結界内部の様子が、誰の目にも明らかになっていきます。
私は体中傷だらけながら立っていて、そして金浜君は無傷ながらダークマターの鉄線に絡め取られ、身動きが取れないでいる。
そんな金浜君に近寄りながら、新たにもう一本のカランビットナイフを生成し、金浜君に突きつけます。
「これで、私の勝ちです」
「はは、参りました」
私と金浜君が宣言すると、見届人であるルーズヴェルト侯爵の声が響きます。
「勝者は、この決闘の勝者はッ! まさかの事態! 我が国の勇者を拘束し、ボロボロになりながらも一本を取った男! 乙木雄一殿だああああぁぁぁああッ!」
魔法で拡声された声が訓練場全体に響き渡り、その後に観客の皆さんの歓声が湧き上がります。
それを聞いて、私は無事決闘に勝ったのだ、と自覚することが出来ました。





