23 変幻自在のおっさん
私は生み出したばかりのナイフを構えます。それを見て、金浜君もまた警戒するように剣を構えます。
「ナイフですか。悪いとまでは言いませんが、おすすめはしませんよ」
「それは、戦ってみれば分かるかと」
不敵な発言をする金浜君と、それに誤魔化すような言葉を返す私。
次の瞬間、私は攻撃を開始します。
周囲に展開した詛泥と瘴気の霧の中に、ダークマター製の小さな筒を生成。片方が閉じて、もう片方は開放されている形のものです。
そして更に、このなかにびっちりと詛泥を詰め、さらに先端部分には針状に形成したダークマターを生成し、筒を完全に密閉します。
そして密閉された筒の中で、隙間なく詰まった詛泥の中に、密閉された空間と同じ大きさの円柱状のダークマターを急速的に生成。
瞬間的に内部の圧力が増し、水鉄砲や吹き矢に近い要領で先端の針状ダークマターが射出されます。
当然、その矛先は金浜君の方向を向いています。命まではとらないよう、足を狙っての射撃です。
霧の中からの、ほぼ不可視の攻撃です。まともな相手であれば、発射されたことにも気づかずに足をやられているはずです。
しかし私の攻撃は、発動すると同時に金浜君に回避されてしまいました。
「不意打ちですか。怖いことしますね」
「避けておきながら言いますか」
「ええ。俺のスキルには、未来予知みたいなものも含まれてるんで」
つくづく、勇者のスキルは桁外れな性能を持っているのだと実感してしまいます。
「では、これならどうでしょう?」
続いて、私が攻撃します。
詛泥の中に生み出した、名付けるならばダークマターフレシェット。これを無数に並べ、金浜君を取り囲むように配置します。そして次々と射撃しては収納、そしてまた形成しては射撃、と飽和攻撃に入ります。
「これは、なかなかの破壊力だ!」
言いながら、しかし金浜君は無事です。
地に剣を突き立て、魔力を流しているのか、光の膜のようなものが発生しています。それがダークマターの針を弾くことで、全ての攻撃か無効化されています。
しかし、威力的に厳しいものもあるのか、金浜君は苦笑いを浮かべています。
「では、お返しです!」
そして、次は金浜君の攻撃です。右手は剣を握り、地面に突き立てたまま、左手をこちらに向けます。
「シャイニングレイッ!」
それが、勇者が持つ光属性の魔法であると、直感的に理解できました。
私が咄嗟にその場を横に飛び退くと、ちょうど私を狙った軌道で光が通り過ぎていきます。横から見える、ということはレーザーというよりはビームに近い魔法なのでしょう。
どちらにせよ、発射を見てから回避することは不可能な速度です。手を向けられた時点で回避しなければ、直撃必至でしょう。
状況的に、このままだと私だけがリスクを背負って金浜君の攻撃を回避し続けなければなりません。なので、光の膜を破壊するなり何なりで、どうにか金浜君に攻撃を届かせる必要があります。
そこで私が選んだのは、前進です。剣を突き立てたままの金浜君に向かって、ナイフを構えたまま攻撃に向かいます。
「なるほど!」
金浜君は焦る様子も無く、私を待ち構えています。むしろ、望むところといった様子でしょうか。
とはいえ攻めに出るべきであるのは変わりません。私はナイフを振りかぶり、金浜君へと接近します。
寸止めするつもりで振るったナイフは、しかし金浜君には当たりません。すっと自然な動きで身を捩り、軌道から回避する金浜君。さらには、そのまま空いている方の手で私の手首を掴んできます。
そして、まるで柔道の技でも掛けられたみたいに、私は投げ飛ばされます。
どうやら金浜君は体術も習得しているようです。
とまあ、やられたい放題に見えますが、そういうわけでもありません。
「くっ、搦め手ばっかり、もう!」
金浜君は言って、顔を歪めます。
実は攻撃に使った方の手は、しっかりと災禍、瘴気、詛泥のスキルを駆使して毒手のような状態にしてあります。
いくら耐性があるとは言え、辛いのでしょう。触れるだけでダメージを負ったのか、手は赤く腫れています。
そして、この一連の流れで金浜君の未来予知系スキルのおおよその性能にも見当がつきました。
おそらくは、己の身に危険が及ぶ可能性のあるシーンだけが見えるようなスキルなのでしょう。
明確にどのような手段でどのような攻撃を受けるのか分かっていれば、私の手首を持って投げるようなことはしなかったはずです。
恐らくは私がナイフを振りかぶって攻撃する姿だけを事前に知ることが出来た。だから投げ飛ばして回避したものの、実際の危険はナイフではなく手首そのものにあった為、未来予知でダメージを回避すること自体は出来なかった。
つまり、上手く攻撃手段を偽装することが出来れば、金浜君にダメージを与えることは可能だというわけです。





