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21 決闘に勝てば




「乙木殿は、どのような理由があって異議を申し立てるつもりなのかな?」

「有咲は、俺の女です」


 その言葉を、躊躇うことなく口にしました。


 すると途端に有咲は感極まった様子で涙を流します。

 一方で、怒るか苦言を呈するかと思われたルーズヴェルト侯爵は、なぜかニヤリと笑います。


「そうかそうか、それは困ってしまった。どうすれば良いかな?」


 どこか演技めいた仕草をしながら、周囲の披露宴出席者に視線を送ります。

 そして、その直後です。


「この物言い、俺が預かりましょう!」


 人々の中から手を挙げ、名乗り出た人物がいました。

 そちらに視線を向けると、なんとそこには金浜君が居ました。


「侯爵の婚約に口出しするなどという暴挙、これは前代未聞の事件です。普通なら上手くいくはずがありません。しかし!」


 金浜君もまた、ルーズヴェルト侯爵と同様に演技めいた仕草で周囲に語りかけます。


「こちらの男性、乙木雄一さんはそれでも愛する女性の為に現れた! その勇気に敬意を表して、ルーンガルド王国の勇者として一つの提案があります!」


 そして、金浜君は腰に下げていた剣を抜いて掲げます。


「この俺、勇者金浜蛍一は貴方に決闘を申し込む!」


 宣言と同時に、周囲から今までと色の違った声が湧き上がり、ざわめきだします。


「もしも俺との決闘に勝てば、この婚約への物言いを勇者金浜蛍一、そして彼女、教会も認める聖女である三森沙織、二人の名で認めましょう!」


 その言葉と同時に、人の壁の合間から三森さんまで姿を表し、金浜君の隣に立ちます。


「どうでしょう、ルーズヴェルトさん。この提案を受けていただけますか?」

「ふむ。我が国が誇る勇者殿、そして聖女殿まで言うのであればしかたない!」


 仕方ない、といいつつも、ルーズヴェルト侯爵は全く悔しがる様子も無く言います。

 そしてパン、と一度手を叩き、人々に向けて語りかけます。


「それでは皆さん。婚約披露宴は一時中断。これから勇者殿の決闘を行う! 場所は既に教会騎士団の訓練場を借りてあるので、そちらに移動となる。案内の者も準備してあるので、速やかに移動して頂きたい!」


 そして、ルーズヴェルト侯爵の言葉が続く毎に、周囲の人々は安心した様子で口々に会話を繰り広げます。これはそもそも、こういう催事であったのだ、と。私が登場した時とは一転して、緩い雰囲気で全員が大聖堂から移動していきます。


 取り残されたのは、私と、ルーズヴェルト侯爵、金浜君に三森さん、そして有咲の五人だけです。


 私と有咲の二人が唖然としていると、ルーズヴェルト侯爵が私に向かって話しかけてきます。


「これは貸しだぞ、乙木殿?」

「あの、事情が飲み込めないのですが」

「それは、俺が説明しますよ」


 そう言って、侯爵に説明を代わってくれたのは金浜君です。


「お二人が無理をしていたというか、変に意地を張っていたのは見ててはっきりと分かったんで、ルーズヴェルトさんに相談したんですよ。そしたら、ルーズヴェルトさんとしてもちょっと困ってたみたいで」

「正直、あのまま婚約の話が進んだとしても厄介事を抱え込む気しかしなかったのでね。元々は私から提案した話である以上は無下にも出来ない。乙木殿との関係も悪化しかねない。そうなれば、そもそもの婚約の提案をした理由が無意味になってしまうだろう? だから勇者殿の提案に乗ることにしたのだよ」


 そう言って、ルーズヴェルト侯爵は少しだけ楽しげに語ります。


「ざっくりと言えば、乙木さんの知り合いに当たって、乙木さんに発破をかけてもらいました。で、今日ここに乱入してもらえるよう誘導したんですよ。とは言っても、上手くいくかはわかりませんでしたから、どっちに転んでもいいように準備してたんですが」

「ははは! まあこの通り、万事うまく行ったというわけだ!」


 楽しげな笑い声を挙げ、ルーズヴェルト侯爵がさらに続けます。


「お陰で婚約もしなくて済むし、乙木殿には貸しを作れた。勇者殿に聖女殿との縁も作れた上に、この催事で私の派閥がどれだけの力を持っているか他の派閥の奴らに見せつけることも出来る。良いことづくめで笑いが止まらないな! ふははは!」


 その言葉から察するに、どうやら侯爵は本気でこの婚約に乗り気ではなかったということですね。

 ようやく状況が理解できてきたので、私は口を開きます。


「つまり、すべて掌の上であったということですか」

「まあ、そうとも言えますね。でも、あくまでも俺たちがやったことはここまでですから。この後、もしも乙木さんが決闘で負けるようなことがあれば元の木阿弥ってやつですよ」


 金浜君は、そう言ってからどこか挑戦的な視線をこちらに向けてきます。


「というわけなんで、乙木さん。全力で戦って下さいね。俺も、殺さない程度には全力でやるので」

「なるほど。高い障害を乗り越えてみせろ、と」

「あはは。まあ、これは半分は俺の楽しみみたいなもんですけどね。最近は陽太以外でまともにやりあえる人も居なかったんで。四天王を短時間で撃退した乙木さんの実力、見せてもらいますよ」


 言って、金浜君は手を差し出してきます。


「それじゃあ、お互いにベストを尽くしましょう!」


 私は差し出された手を握り返し、頷きます。


「ええ。どうやら、私が有咲を手に入れる為に必要なことのようですので」


 そうして握手を交わします。

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― 新着の感想 ―
色々伏線があって誰それにあの言葉を言わせたいが為だったみたい構想だったのかな、とは思いますが。 いい落としどころ、と言いたいが今までの内容が酷すぎてもうちょっと上手く構成できなかったのかなという印象が…
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