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18 真相と真意




「有咲さんに、私は聞きました。どうしてこんなことをするのかと」


 マリアさんは私に呆れた様子のまま、語り続けます。


「自分のスキルが教えてくれるから、と言っていましたよ」

「スキル、ですか。カルキュレイターですね」

「恐らくはそれでしょうね」


 どうやら、有咲さんの選択はカルキュレイターの保証まであるようです。尚の事、私の出る幕は無いような気がしてきます。


「基地の視察の時に、有咲さんは乙木様と聖女様が互いに抱きあう姿を見たそうです。その時、全てが理解できたのだと」


 言われて、気づきます。それは正に、何かがおかしくなった始まりの日のことでした。


「自分が居なくても、貴方にはいくらでも女性がいる。相手には困らない。そして自分が侯爵様のところへ嫁げば、貴方にとって最大の利益が得られる。だったら、自分は侯爵様を選ぶべきだと。それがベストであると言っていました」

「なぜですか。なぜ有咲さんは、私の利益なんかを」

「愛しているからでしょう」


 マリアさんは私の言葉を聞いていられなかったのか、途中で呆れと僅かな怒りが滲む声で言い返してきました。


「有咲さんは、乙木様のことを愛していると。だから、乙木様が一番幸せでいることが自分にとっての一番の幸せなんだと。そう言っていましたよ」


 ああ、なるほど。確かにそれは、納得できる理屈です。私自身が、そんなことを言って自分よりも有咲さんの幸せを考えようとしているのですから。


「ずっと、同じ答えが頭から離れなかったそうですよ。自分で自分を使って、貴方の夢を、目標を手伝う。そうやって貴方のためになることが、貴方のことを愛している自分にとっての一番の幸せなんだと。そうスキルが教えてくれると言っていましたよ」

「そう、ですか。カルキュレイターが導き出した答えなら、間違いはありませんね」


 そう言った瞬間でした。

 パァン! と、私の頬がマリアさんの平手打ちで叩かれました。


「ふざけないでください。スキルによる幸せが、その人の一番の幸せになるとは限らないでしょう! そんなこと、あるはずないでしょうが!」

「しかしカルキュレイターとはそういうスキルで」

「では、何ですか? スキルを持たない人たちは幸せになれないのですか? 答えを教えてもらえない人たちはいつも間違えて、いつも不幸で、いつも失敗ばかりしているのですか? 違うでしょう。そんなものが無くたって、人は自分の幸せぐらい自分で考えて選ぶことが出来ます」


 理屈は分かります。しかしカルキュレイターとは女神に与えられた必ず答えを導く、スキルです。


 と、そこまで考えて私は気づきます。


 確かにカルキュレイターとは答えを導くスキルです。しかし、機能はあくまでもそれだけ。見たもの、聞いたものから推測される可能性、最も合理的な結論を導くものです。


 なので、導き出された答えと自身の幸福の間で齟齬が生まれる可能性は十分にあるでしょう。見たもの、聞いたものから得た情報、つまりインプットが膨大で、自分で自分の気持ちを押し殺し、感情面でのインプットが最小限であったとしたら。

 そこから導かれる答えが、自身の感情面での幸福を小さく見積もる可能性は否定できません。


 そして、私にはその心当たりがあります。

 有咲さんに好意を伝えられたあの日から。私は明らかに自分の気持ちに嘘を吐いてきました。そして有咲さんを拒絶して、拒絶し続けて、どこまでも彼女を受け入れはしないという態度を取り続けました。つまり、異常なインプットをカルキュレイターに入力し続けたのです。


 旅の間もそれは続いて、それでもまだ有咲さんは諦めなかった。私のことが好きだと、ずっと伝え続けた。それも私は、否定し続けた。

 そして最後に、三森さんとの一件を目撃し、とうとうカルキュレイターが導き出す答えも変わってしまった。

 異常なインプットが続いた結果、とうとうカルキュレイターが導く答えも異常なものになってしまった。


 そう考えれば。

 もしもそうだとすれば、全ての状況に説明がつきます。突然有咲さんが態度を変えた理由も。有咲さんが自分の幸せよりも私の利益なんかを優先する理由も。全ては私が有咲さんを拒絶し続けたことから導かれた、最も合理的な結論に過ぎなかったのです。


「ご理解いただけたみたいですね」


 安心した様子でマリアさんが呟きます。ずっと黙り込み、考え込む私を見てそう思ったのでしょう。実際、カルキュレイターというスキルが持つ欠点と、それにより発生する状況については理解できたので、そう的外れな見解ではありません。


「さて。では乙木様。最後に訊きます。貴方は、どうしますか?」


 マリアさんは、いよいよ本題、と言った様子で切り出しました。

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