17 付与魔法の教師
六日目の朝、私はさっそく付与魔法を学ぶため、マルクリーヌさんに頼み込みます。
「というわけで、マルクリーヌさん。付与魔法を習得したいのですが」
「お前はいつも突然だな、乙木殿」
呆れたようにため息を吐くマルクリーヌさん。でも、こうして本題から入ったほうが手間がなくて良いでしょう。これはお互いの為の合理化の結果です。
「魔法を学びたいなら、宮廷魔術師のシュリヴァを紹介しよう。騎士団長の私からの頼みなら、奴も聞いてくれるはずだ。ましてや、乙木殿を不自由にさせるなという王命もあるからな」
そう言って、マルクリーヌさんは早速私を宮廷魔術師のところへ案内してくれます。
宮廷魔術師シュリヴァさんは、常に王宮の西側から伸びる尖塔の最上階にある研究室に引きこもっているらしい。
色々と、恨みがましい言葉を一緒に並べながらマルクリーヌさんは説明してくれました。
奴は変態だ、気をつけろ。乙木殿は恐らく奴の好みに合致する。これまで奴の後始末に奔走した回数は数知れない。
そんなことをマルクリーヌさんは言い続けます。
私も女神様に変態のお墨付きを貰っているので、もしかしたら仲良く出来るかも知れませんね。
マルクリーヌさんの愚痴を聞き続けるうちに、シュリヴァさんの研究室に到着しました。
まずはマルクリーヌさんが扉をノックします。
「シュリヴァ。私だ、マルクリーヌだ。用件があって来た。別にお前を罰する任務ではないので、ここを開けてほしい」
何やら妙な物言いで頼みを告げると、ゆっくりと扉は開きました。どうやら自動ドアのようです。内開きで助かりました。外開きならマルクリーヌさんがドアにしばかれるところでしたね。
いや、マルクリーヌさんはこのドアの構造を知っているはずですから、外開きなら距離を置いていたのでしょう。恐らく。
「入るぞ」
マルクリーヌさんが言って、室内に踏み込みます。それに続き、私も部屋に入ります。
「やぁやぁマルマル。ボクに用事だなんて、急にどうしたのかな?」
部屋の奥から声がします。
視線を向けると、そこには幼い少女のような見た目の人物が立っていました。可愛らしい、ボブカットの青い髪が印象的です。
少女にしては不釣り合いな、立派な刺繍の施されたローブを身にまとっています。
「シュリヴァ。今日の頼みは私からではない。こやつ、異世界から召喚された乙木殿の頼みなのだ」
「まじ? 異世界人の頼み? 聞く聞く、聞いちゃう!」
シュリヴァさんは部屋の奥から急にこちらへ駆け寄って、私の側で立ち止まります。
少女らしい身長で、シュリヴァさんの頭は私のお腹辺りまでしかありません。
「キミが異世界人かな?」
「はい。乙木雄一と申します」
「オトギユーウィッチ、ううん、かわいくないからキミは今日からオトギンだ。そう名乗るといいよ」
「はぁ、分かりました。異世界人のオトギンです」
「物分りがいいね、オトギン。そういう子はボク、大好きだよ!」
少女にしか見えないシュリヴァさんが、私に抱きついてきます。身長差のせいで、シュリヴァさんの胸辺りに私の股間が当たります。
困ってしまい、ついマルクリーヌさんの方を見ます。
「乙木殿、気にしない方がいい。こいつはこの見た目で既に齢百歳を超えるご老人だ。しかも、このなりで男なのだ」
「男ですか、それはまた」
珍しい外見の人がいるもんですねえ。さすが異世界です。