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13 なかなかのワル




 にっこりと、無邪気そうに見えてどこか含みをある笑みを浮かべてシュリ君は私に問い掛けます。


「なにか作るつもりってだけなら、オトギンはいちいちボクに検査してくれ、なんて言いに来ないよね? どういうつもりかなぁ?」


 シュリ君は、どうやら私がまた新しいことを企んでいると予想しているようですね。

 しかし、今回は事情が違います。あくまでも、有咲さんに贈る装飾品の素材に相応しいかどうか、何か危険な性質が無いかどうか。それを調べてもらうために持ってきたのですから。


 ですので、私は一部始終の事情をシュリ君に話しました。

 最初こそシュリ君は驚いたような表情を浮かべたものの、その後は特に口を挟むこと無く、話を聞いていました。

 そして全ての事情を話し終えて一言。


「ふふ。オトギンってば、なかなかのワルだねぇ」


 ニヤリと笑みを浮かべ、シュリ君は語ります。


「確かに侯爵家と繋がりが出来れば、自分の商売にはプラスになるだろうけどさ。でも、気持ちを抑え込んでまで、自分の姪にそんなことさせるなんて。いやー、想像以上のワルだねぇオトギンは!」


 シュリ君の言葉が胸に突き刺さるようでした。咄嗟に、まるで防御反応のように私は言葉を返します。


「そのつもりでは、ないのですが」

「でも結果的にそうなってるよね?」


 事実が、突き立てられます。


「だったら、ワルだよねぇ?」


 シュリ君の声が、妙に頭に響くようでした。



 その後、私はシュリ君の研究室を離れ、帰路につきました。シュリ君に言われた言葉がショックとなり、どこか茫然自失としたまま歩きます。

 その結果、何度も訪れた場所だというのに、迷子になってしまいました。

 王城は広く、足を運んだことのない場所も多いため、変な道に入れば迷ってしまうこともあるでしょう。しかし、何度も通った道を間違えるというのはあまりにも集中力に欠けています。


 自分でも、自分を間抜けだと思いながら元の道に戻ろうと歩くこと十数分。


「おや、乙木殿。どうされたのかな?」


 マルクリーヌさんが、ちょうど正面から歩いて来ます。


「実は、道を一本間違って迷子になってしまいまして」

「ああ、城内は広く複雑だからな。歩き慣れていなければ、迷うこともあるだろう。案内した方が良いかな?」

「お時間の都合が良ければ、そうして頂けるとありがたいです」

「承知した。では、こちらに」


 マルクリーヌさんは、私を先導するように歩き始めます。私は、その後ろを付いていきます。

 そうして歩き始めてまもなく、世間話をする様子でマルクリーヌさんが口を開きます。


「そういえば乙木殿。噂を聞いたぞ? 姪っ子の、美樹本有咲殿だったか。彼女がルーズヴェルト侯爵殿と婚約するのだとか」

「ああ、ええ、まあ」


 私は歯切れ悪く頷きます。その様子に気づいていないのか、マルクリーヌさんは普段どおりの調子で話を続けます。


「確かに、嫁ぎ先としてルーズヴェルト侯爵殿は悪くない。良いお方だし、派閥としても最大派閥で、私の実家もあの方の派閥だ。乙木殿の親類があの方との縁を持ったとなれば、乙木殿が名誉貴族ではなく、れっきとした貴族籍を持つことも視野の内に入ってくるだろう」

「そう、ですね」

「私はてっきり、あの子は乙木殿の第一夫人となるのかと思っていたのだが、とは言え政略結婚など上流階級の間では珍しいことでもない。ルーズヴェルト侯爵殿であれば、その辺りも踏まえた上で婚約の話を持ちかけてくださったのだろうから、愛人として乙木殿の元に通う道も無くはない。無論、面子には十分配慮した上でだが」


 その言葉に、一瞬私は想像してしまいます。有咲さんが侯爵家に嫁いだ後も、私のところに来てくれる。戻ってくれる可能性を。

 期待してしまったかのような、というより実際に期待しているからこその妄想に、私は嫌気が差しました。

 自分は、こんなにも醜く、汚い感情の持ち主だったのかと。自分の都合で有咲さんを政治的に利用し、あげく有咲さんには自分のものでいて欲しいなどと思っている。


 あまりにも、ひどい。そう思うと、もう堪えてはいられませんでした。


「すみません、マルクリーヌさん。少々用事を思い出しました」

「ん? 何かあるなら、そこまで案内しよう」

「いえ、大丈夫です。それでは」


 私は一方的に、かつ逃げるようにマルクリーヌさんから離れます。

 一度どこかで、一人で、心を落ち着けたい気分でした。

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