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11 ゴブリンの生態




「恐らくだけど、この金属がドラゴンの鱗の性質を司っていたものの正体だよ。ドラゴンは自分の体内でこの物質を作り出し、鱗の中に満遍なく粒子状にして混ぜ込んでるんだ。だからドラゴンの鱗は魔法に対する耐性が高くて、武器や防具の素材として非常に優秀なものとして取引されてるわけだよ」


 シュリ君の仮説に、一瞬だけ疑問を覚えましたがひとまず置いておきます。体内で金属を生成、というのは地球の感覚で言えばありえないことです。しかし、ここは異世界。魔法まであるのですから、そういった器官を体内に備えている生物が存在していてもおかしくはありません。

 あるいは核融合炉のような反応をする器官が体内にあるからこそ、ドラゴンは強力なブレスを吐くエネルギーを生成出来て、インシュレイターも生成することが出来るのかもしれません。


 とまあ、妄想のような考えは一旦置いておきましょう。


「そのような器官を含む生物などというのは、ありえるものなのですか?」


 結局はそこなのです。実際にありえるのか、ありえないのか。この世界での常識的な部分での判断こそが重要ですから。


「うーん、ありえるとは思うよ。魔物ってさ、けっこう普通の動物とは違って肉体の構造的に自由度が高いんだよ」


 そう言ってから、不意にシュリ君はどこからともなくメガネを取り出し、装着します。


「ふふん、このボクが魔物の生態に詳しくないオトギンの為に、特別授業をしてあげよう!」

「はい、お願いします」


 どうやら、解説モードに入るための雰囲気作り。そのためのメガネだったようです。


「まず、魔物の肉体の構造は普通の生物からかけ離れている。これはまあ、当たり前だね。それこそゴーレムとかスライムみたいな奴らまでいるんだからアレだけど、もっと身近な、生き物らしい生き物で例を挙げるならゴブリンが分かりやすいかな」

「ゴブリン、ですか」


 人型の、生態系的にも能力的にもそれほど通常の生物の範疇から逸脱していない魔物です。そんな魔物が、なぜ例に挙がるのでしょうか。


「有名な話だけど、ゴブリンの肉はかなり不味い。ゲロマズ。腐った肉でも食ったほうがマシってぐらいなんだけど、それは知ってるよね?」

「ええ、まあ」

「実は、その肉の不味さはゴブリンが進化の過程で獲得した能力だっていう説があるんだよ。どんなところにでもゴブリンは居るんだけど、こんなに弱くて、逃げる能力も姿を隠す能力も低い生き物が世界中で繁殖してるなんてそもそもおかしいよね? 普通なら絶滅してるよ。でも、そうなってない。理由の一つとして、ゴブリンの肉が不味いからだ、っていうのが挙げられるんだよ」


 言いつつ、シュリ君はメガネを一度だけクイッと持ち上げ、気合を入れて話し続けます。


「現在、世界中で確認されてるあらゆる魔物、動物の中で、ゴブリンの肉を積極的に食する可能性のある種は数えるほどしかいない。悪食で知られるあのキャタクロウラーでさえ、ゴブリンの肉は食べないんだよ。有機物ならなんでも溶かすスライム系統を除けば、本当に数えるほどしかゴブリンの肉は食べない。中には、食べることで死んでしまう種も存在するぐらいなんだ」

「そこまでの不味さだったのですか。いえ、死ぬ可能性もあるというのなら、それは不味さというより、肉に含まれる成分がそもそも毒なのでしょうね」

「そのとおり!」


 ビシッ、とシュリ君は私を指差します。


「ゴブリンの肉に含まれる成分は、かなり複雑なんだ。人間には無害だけど、一部の生き物にとっては毒になることもある。お腹を壊したり、中には即死するぐらいの拒絶反応が出る場合もあるぐらいなんだ。それが天敵相手であればまだ納得できるんだけど、ゴブリンの場合は世界中のあらゆる魔物に対応してるわけ。あまりにも種類と、そして量が多すぎる。そんなの、本来なら筋肉として機能するはずが無いレベルだよ」


 筋肉全体がそれだけの多種多様な毒として機能するのであれば、逆に筋肉として機能するのはおかしい、という発想は確かに納得できます。


「なのに、ゴブリンはちゃんと生きてる。不味すぎる肉を持っていながら、まあ確かに力は弱いけど人間よりもちょっと弱いぐらいで済んでる。そんな不自然な筋肉を持っていても、ちゃんと生物として成り立っている。それが魔物っていうものなんだよ」


 シュリ君はゴブリンの生態についての話を締めます。


「あと、これは余談なんだけど、今から三百年ぐらい前にはキャンディゴブリンっていう種類の不思議なゴブリンが居たんだ。知能も戦闘能力も高くて、皮膚が人間以上に色白で、肉もキレイなピンク色をしていて、しかも食べると美味しいっていうゴブリン。彼らは地中海周辺に独自の集落を作って生活していたんだけど、当時のある国の王様がキャンディゴブリンの肉の味に魅了されちゃってね。結局絶滅するまで狩り尽くされちゃったって話」


 ちなみに、シュリ君の言う地中海とは地球のものとは全く違い、この世界、この大陸に存在する陸地のど真ん中にある巨大な湖のことです。海のように塩っぱく広大であることから、この世界では地中海と呼ばれているのです。


「で、その事件がきっかけになって、もしかしてゴブリンの肉が不味いんじゃなくて、不味い肉を進化の過程で獲得したゴブリンだけが狩り尽くされることなく生き残っただけなんじゃないかっていう説が唱えられるようになったんだ」

「なるほど、確かに理屈としては納得できますね」

「まあ、まだ仮説に過ぎないし、そこまで有名でもない説なんだけどね。あ、ちなみにキャンディゴブリンの話はお伽噺にもなってて、洞窟ドワーフと同じぐらい有名だったりするよ」

「そうなのですか?」

「うんうん。最後はキャンディゴブリンの集落生まれなお陰で賢さだけは受け継ぐことの出来た普通の緑色のゴブリンが王様に復讐を成し遂げて終わるんだよね。実際、その国の王様はキャンディゴブリンの集落を潰した数年後に暗殺されて亡くなってるから、やりすぎは良くないよっていう教訓としてこのお話が有名になった感じかな」


 なるほど。一口にゴブリンと言っても、様々な学説や物語があるわけですね。弱い魔物だからといって、その存在を軽んじて良いわけでは無いということでしょう。

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