10 ドラゴンの鱗
ドレスの仕立ての準備が終わりました。なので、次は装飾品の制作に入ります。
私は『鉄血』スキルにより、様々な種類の金属を手に入れています。それこそ、最も希少かつ頑丈な金属であるオリハルコンまで。
それに、先日のドラゴン、アレスヴェルグとの戦いで手に入れた謎の希少金属もあります。
日常的に付けるものですし、これら複数種類の希少金属を使ったネックレスを用意すれば、おそらくは十分な贈り物となるでしょう。
その為に、現在私は宮廷魔術師のシュリ君のところへと向かっています。
理由は二つ。まずはアレスヴェルグから採れた希少金属の鑑定。性質的に装飾品に使っても問題ないものなのか調べてもらいます。
そしてもう一つ、あの戦いの中で生まれた新たな物体、呪われたオリハルコンであるダークマターの性質測定です。こちらはせっかくだからついでに、といった感じの用件にはなりますが、調べておくことに意味はあるでしょう。現状、触れた者の皮膚が爛れ、腐る効果があること以上のことは何も分かっていませんからね。
私が訪ねると、シュリ君は快く迎え入れてくれました。
「やぁやぁ、いらっしゃいオトギン! 久しぶりだねぇ」
「ええ、お久しぶりです」
「今日は何かな? 例の視察とやらで何か新しい発見でもしたのかな?」
「ええ、まさにちょうどその件についてなのですが」
言って、私は例の金属、ダークマターとアレスヴェルグの鱗から採れた金属を取り出します。
「オトギン、これは?」
「こちらは、私が討伐した魔王軍四天王アレスヴェルグの鱗に成分として含まれていた金属を集め、インゴットにしたもの。そしてこちらは、オリハルコンが私の持つスキルによって汚染され、かなり性質が変化してしまったものです。一応、私はダークマターと呼んでおります」
私が紹介を続けている間も、シュリ君は興味深そうに二つのインゴットを観察しています。
「これは、どちらも見たこと無い物質だね。こっちのダークマターってやつは、常に魔力を、それもかなり濃い目で重たいのを周囲に発散させてる。で、逆にもう一つの物質は魔力を一切近づけない。隣から濃厚な魔力が流れてきてるのに、全部インゴットに触れる手前で弾かれるみたいに流れを変えてる」
「そうだったのですか、どおりで」
実は、アレスヴェルグから採取した金属は『詛泥』を介して収納していました。なのに、ダークマターと同様の変化を起こすことはありませんでした。
その他の様々な金属はオリハルコンと同様の変化をしましたが、この物質だけが例外だったのです。
魔力を弾く性質から考えるに、詛泥からの影響もまた弾いていたのでしょう。
「ともかく、両方とも未知の物質なのは間違いないね。詳しく調べなきゃいけなさそうだ。オトギン、もうちょっと詳しい話を聞かせてもらえるかな?」
「分かりました」
そうして、シュリ君による検査が開始しました。
シュリ君が二つの物質を様々な手法で解析していく様子を眺めながら、私はそれぞれの金属を入手した経緯を詳細に話します。これをシュリ君は、作業の手を止めずに聞き続けました。
私の新たなスキル『災禍』と、そこから派生した『瘴気』と『詛泥』のスキル。その性質と効果の程について。そして『詛泥』を介して出し入れした金属の性質が呪われて変化することや、アレスヴェルグの鱗に含まれていた金属だけは変化を起こさなかったことまで。
一通り私が思いつく話を済ませた後は、シュリ君から質問が飛んできます。もちろん、作業の手は止めないままに。
「じゃあ、オトギンはこっちの、えーっと、ややこしいからひとまずインシュレイターって名付けようか。インシュレイターは例の四天王のドラゴンの鱗から抽出したって認識でオーケー?」
「はい、そのとおりです」
「抽出した感じは、どんな感じだったか分かったりするかな? 例えば一部分が欠けるような感じで採れたのか。それとも、鱗全体がインシュレイターだった感じ?」
「いえ、なんと言えばいいのか。感覚としては、鱗の中から何かが抜けていくような、布に染み込んだ水が抜けていくような、そんな感じでしたね」
「ふむふむ。同じことを、普通のドラゴンには試した?」
「いえ。討伐したドラゴン全てを私が回収してしまうと、襲撃で破壊された基地の施設の修繕費用等に回す分が無くなってしまうだろうと考えましたので、一切手を付けていません」
「なるほど、じゃあドラゴンの鱗であれば同じ金属が含まれている可能性はゼロじゃない、と」
そう言うと、シュリ君は作業の手を一度止めて、何か別のものを探し始めます。
研究室のいくつかの引き出しを探した後、目的のものがあったのか、それを取り出してこちらに持ってきます。
「ちょうど研究用に素材として仕入れたドラゴンの鱗の、欠片の余りがあったんだよね」
そう言って、シュリ君が差し出したのは小さな石ころのような形をした物体でした。
「色々使っちゃった後だからもう残りはこれっぽっちだけど、もしもドラゴンの鱗にもインシュレイターが含まれてるならここからだって抽出できるはずなんだよね。オトギン、できそう?」
「はい、試してみます」
シュリ君に言われ、私はドラゴンの鱗の欠片を受け取ります。万が一、この素材を消し飛ばしてしまわないように使うスキルは『鉄血』にしておきます。
掌に傷を作り、そこに鱗を乗せます。そして集中すると、うっすらと何かが収納可能であるような感覚があります。アレスヴェルグの時のようなはっきりした感覚ではありませんが、確かにスキルは反応しています。
その感覚に従い、スキルを発動すると、やはり当たりだったのか、何らかの金属が吸収されていくのがスキルを介して実感出来ます。
そして吸収が終わったら、鱗の欠片を机の上に置き、代わりに掌には吸収した金属の塊を生み出します。
生成されたのは小豆ぐらいの大きさの小さな金属片でした。
「やっぱりね。この金属片も魔力を弾いてる。仮説は正しそうだよ」
そう言って、シュリ君はニヤリと笑いながらこちらを向きました。