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09 心の中に答えがある




 その後、十数分ほどローサさんと戯れた後。私はイザベラさんに会うため、彼女の部屋へと向かいます。

 孤児院の近況などを聞いておきたいという気持ちもありますが、それだけではありません。

 ローサさんに言われたこと。笑顔でいてほしいという願い。それをどうやれば叶えられるのか。自分はどうすれば、この思いを乗り越えられるのか。それを誰かに相談したくなったのです。


 私一人でうだうだしていても、上手くいかないことはローサさんに教えられましたからね。さっそく、知人を頼ってみることにします。



 急に訪ねてきたにも関わらず、イザベラさんは快く迎え入れてくれました。


「お久しぶりです、乙木さん。今日はどういったご用件でしょう?」

「ええ。最近の子供たちの様子について、何か気づいたことがあれば聞いておきたいと思いまして。それと、個人的な用事なのですが、相談事が一つ」

「まあ、そうですか。乙木さんにはいつもお世話になっていますから、相談事の一つや二つぐらい、お引き受けします」


 それぐらいでお返しになるのでしたら、とイザベラさんは少し冗談っぽく言ってみせます。こうした気さくさを見せることで、相談事をしやすい空気を作っていただけました。

 沢山の子供たちと接してきて培った経験によるものなのでしょう。


 ともかく、まずは子供たちの様子についてです。

 これについては、それほど大きな問題も無かったようで、小さなトラブルも私がいない間に魔道具店の方々に相談して既に解決済みとのことでした。どうやら業務内容外の仕事をマリアさん、そしてシャーリーさんがこなしてくれていたようなので、後でお礼と、別途でボーナスを出すことにしましょう。


 そうした事務的な、仕事の話が終わり、いよいよ本題。私の悩みについての相談です。


 ローサさんに話したよりも詳しい話をイザベラさんに告げた後、さらにはローサさんから笑顔でいてほしい、元気になってほしいと言われたことも語ります。

 一通りの事情を説明した後、私は纏めるように言います。


「ともかく、私としては今の状況をよく思っていません。どうにかしたいのですが、その気持ちだけではどうにもならない。どうすれば、私はこの問題を吹っ切れるのでしょうか」


 一部始終の話を、イザベラさんは聞きに徹してくれました。そして私が全て話し終えると、一度頷いてから答えてくれます。


「それは、とても難しい問題ですね。人の気持ちが、それも自分以外の誰かの分まで考えなければいけませんから。どうすれば良いのか。あるいは、あの時どうしていれば良かったのか。その答えは、簡単に出るものでは無いと思います」


 イザベラさんは真剣な様子で、諭すような口調で語っていきます。


「ですが、一つ確かなことがあります。それは、乙木さんが何をすれば良いのかということです」

「私の、やるべきことですか」

「ええ。きっと、乙木さんの心の中には、私が考えたり、お話を聞いたりするだけでは伺いしれない何かがあるのだと思います。自分の内側にだけある何か大きな問題が、きっと乙木さんを迷わせているのです」


 抽象的な話ではありますが、言いたいことは分かります。つまり私の迷いは私自身の心の問題であると。言われてみれば当たり前ですが、わざわざ意識まではしていない部分です。


「ですから、まずは自分の心と向き合ってみて下さい。貴方の中の何かが引っかかるから、貴方の心が貴方の思い通りにならないのです。ですから、まずは自分に素直に、正直になってください。そうやって自分と向き合うのが始まりですから」

「なるほど、それは確かに、納得のいく理屈ですね」


 話の筋は通っていますし、確かに漠然と考えるよりは、私の心の中でなにが問題として意識されているのか。そこに焦点を当てた方が効率も良さそうに思えます。


「ですから、乙木さん。こちらへ」


 イザベラさんがそう言って手招きをするので、真正面まで歩み寄ります。


「少しお辞儀をして、頭を低くしていただけますか?」

「こう、でしょうか」


 私が頭を下げると同時です。不意に、ふわり、と頭を何かが包むような感覚が襲いました。どうやら、イザベラさんが私の頭を胸元に抱き締めるような形になっているようです。


「大丈夫です。きっと、乙木さんは大丈夫。心の中に答えがあるんですから、きっと見つけられます」


 まるで幼子をあやすような、優しすぎるほどの声色でイザベラさんは言います。そして、私の頭を慰めるように撫でます。

 不思議と、不快には思いません。むしろ、何か心のささくれた部分が癒やされるような、そんな気持ちになりました。


 気がつくと、涙が溢れていました。

 いい歳の男が、女性に頭を抱きしめられ、撫でられて泣いてしまうなどとは。恥ずかしい限りなのですが、しかし涙を止めることは叶いません。


 そのままの姿勢でしばらく、私は涙を流しました。イザベラさんは、まるで本当に幼子を相手にするように、辛抱強く大丈夫、大丈夫と私を慰めてくれました。

 どれぐらいそうしていたでしょうか。ようやく涙の収まった私は、イザベラさんの胸元から離れます。


「ありがとうございます、もう、平気です」

「元気は出ましたか?」

「ええ、とても」


 少し照れくさい気もしますが、既に醜態を晒した後です。気取る必要は無いでしょう。


「イザベラさんのお陰で、また少し頑張れるような気がしてきました」

「ええ。乙木さんのやるべきことが見つかる日が来るよう、私も祈っております」


 そうして、何度かお礼と祝福の言葉を交互に言い合った後、私は孤児院を後にしました。

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