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06 涙の冒険




 王都に到着し、帰り着いた挨拶だけ済ませて、私はすぐさま引き返して冒険者ギルドへと向かいました。

 店のことなど、一通りの指示、方針等については有咲さんに伝えてありますので、上手くやってくれるでしょう。

 今は何より、誰とも話すこともなく、一心不乱にこの作業に没頭していたかったのです。


 冒険者ギルドに到着した私は、すぐさま依頼票の張り出された掲示板に目を通します。特に、討伐系の依頼を中心に。

 そして、目当ての依頼票を発見し、それを剥ぎ取ります。


 その内容は、魔物『ウルガス』の異常繁殖した森での討伐依頼。

 元々は森でビッグラットと呼ばれる魔物が異常繁殖していただけだったものが、対処が遅れた結果『キャタクロウラー』という巨大な芋虫の魔物の餌となってこれまた大繁殖。さらにはこのキャタクロウラーの討伐も間に合わず、ついには蛹となり、羽化して最終形態である蛾の魔物『ウルガス』の大量発生を許してしまったのです。


 このウルガスが大量発生した森で、ウルガス及びキャタクロウラーの間引きをしてほしい、という依頼票。

 私の目的は、ウルガスの蛹が作る繭にありました。

 ウルガスの繭から作られる糸は魔法触媒としても優れ、また加工を施せば革よりも強靭になり、うっすらと七色に輝く糸となります。この糸を素材とする布は最高級のドレス用生地として使われており、非常に高価な値段で取引されています。


 ですがウルガスは羽化した後、自らを守っていた繭を食し、これを栄養源として成長を促進させます。また、繭でいる期間は魔獣であるためか極めて短く、一日も掛かりません。

 そのため、羽化前、あるいは直後のウルガスと遭遇するという幸運に恵まれなければそうそう手に入らない素材でもあります。

 さらには、キャタクロウラーはそれほどでもありませんが、ウルガスは単独ではA級冒険者でなければ討伐不可能と言われる強力な魔物であることも手伝い、繭の希少性が跳ね上がっています。


 しかし、ウルガスが大量発生している今なら。そして私の実力であれば。希少な繭をドレス一着に必要な分だけ手に入れることも難しくはありません。


 ちなみに依頼については偶然見つけたわけではなく、ウェインズヴェールでは既にキャタクロウラーの大量発生が噂になっていたお陰です。もしもあの大量発生が解決されていなければ、というある意味悪い予想に掛けたのですが、大当たりです。


 私は受付にて手早く依頼を受けると、そのまま冒険者ギルドを、そして王都を飛び出しました。

 ウルガスの大量発生した森は王都からなら徒歩で七日間もかかる距離です。しかし、既に私の身体能力は人間の範疇にはありません。全力で、それこそ衝突すれば馬車だって跳ね飛ばしかねない勢いで目的地へと向かいました。



 私が森に到着したのは、その日の夜でした。雲が掛かり月明かりはほぼなく、深い闇に包まれた森は異様に静かで、不気味さすら感じます。

 ですが、むしろ都合がいいかもしれません。


「うおおぉぉぉぉおおッ!」


 私は、叫び声を上げながら森に突入します。

 直後、瘴気と詛泥を発生させ、自らの周囲に漂わせます。また、詛泥の中から呪われたオリハルコン、無邪気に有咲さんに披露してやろうと意気込んで名付けたダークマターという名のその物質を剣の形にして取り出し、手に握ります。


 私自身はスキルのお陰か、詛泥や瘴気の効果はもちろん、その他の一切の毒、疾病、呪いが無効化されます。なので、ダークマターを手にしても当然呪いにやられることはありません。


 ともかく、私はダークマターの剣で道行く先の障害物を切り裂きながら、森の奥へと駆けてゆきます。


「ちくしょう」


 自然と、その言葉が漏れました。


「ちくしょう、ちくしょう! ちくしょおぉぉおッ!」


 私は、自分でも制御できない激情に支配されたまま、叫びます。

 知らぬうちに涙は流れ、身体は震えていました。頭は怒り狂った時のように熱く、けれど嫌に冷静で、今の自分の醜態を俯瞰するように感じていました。


 やがて騒ぎを聞きつけたウルガス達が、私へと襲いかかってきます。

 しかし、数が集まったところで私のステータスはオールSS。この程度の魔物など、相手にもなりません。

 瘴気や詛泥に触れたそばから腐って崩れ落ち、壊死していくウルガス達。危険を感じ取った者は逃げるように背中を見せますが、私は逃しません。狙い撃つようにダークマターの槍を生み出して貫いたり、駆け寄って剣で一刀両断したりして処分してしまいます。


「ああああああぁぁぁぁあああッ!」


 言葉にもならない叫び声を上げながら、私は一心不乱にウルガス達を退治していきます。

 殺して、殺して、ひたすらに殺して。八つ当たりのように無数のウルガスの命を刈り取って。

 気がつくと、広場らしき場所に出ました。


 そこにはウルガスのものにしても巨大すぎる繭が一つと、それを取り囲むように無数のウルガスの繭がありました。

 そして、巨大繭の隣にはゴブリンらしき姿が一つ。


「グハハハハ! よく来たな人間よ、我こそは魔王軍七武将が一人、空席となった四天王の座に最も近いとされるジーニアスゴブリンの賢将メティドバン様だァ! とくと見るが良い、今こそこの私が無数のキャタクロウラー同士に共食いさせることで生み出した最強のキャタクロウラー、オメガキャタクロウラーから進化することによって生まれる最強のウルガス、オメガウルガス誕生の時よ!」


 次の瞬間、巨大繭の表面に罅が入ります。そして連動するように、周囲の繭にも罅が入り、中からウルガスが姿を見せます。

 そして肝心の巨大繭からは、通常のウルガスよりも五倍ほどの巨体を持つ超巨大ウルガス、オメガウルガスが姿を表します。


「今こそぉ! この私魔王軍七武将が一人にして空席となった四天王の座に最も近いとされるジーニアスゴブリンの賢将メティドバン様が生み出した究極のキャタクロウラーであるオメガキャタクロウラーから進化することによって生まれる最強のウルガス、オメガウルガスによって恐怖のどん底に落ち」

「うるせぇええええんだよぉぉぉおおッ!」


 私はゴブリンの並べる御託を聞いていられず、叫びながら突進。そのままダークマターの剣で首を一線。一瞬にしてその生命を刈り取りました。

 次はオメガウルガス。ちょうど生まれたばかりで繭も残っていることですし、こいつの繭を貰うことにしましょう。


「くそったれえええええぇぇぇええええッ!」


 私は詛泥をダークマターの剣に纏わせ、これを全力で横一文字に振り抜くことで周囲に飛散させます。

 刃の軌道をそのまま拡張するかのように、詛泥は鋭い泥の刃となって周囲のウルガス達、そしてオメガウルガスを襲います。

 巨大な蛾の群れは、わずか一撃で上下に二分され、全てが絶命しました。


『キュオオオォォオオオンッ!』


 オメガウルガスも例外ではなく、断末魔らしき鳴き声を上げた後は、地面に墜落し、ピクリとも動かなくなりました。

 私はそれを確認すると、静かに巨大繭に近寄ります。

 見るからに質の良い繭で、通常のウルガスの繭よりも色艶が良く、より深い七色の輝きを発しています。


「有咲、さん」


 私は無意識のうちに、その名前を呟いていました。

 そして貴重なウルガスの繭も含め、可能な限りをアイテム収納袋にしまい込み、その場を後にしました。

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