表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
161/366

05 婚約発表に向けて




 ウェインズヴェールを発ち、王都へと帰還します。

 その道中、私は有咲さんから決まったことを聞かされます。私の目の前で話していた内容だったそうですが、気が気でなくて一切耳に入っていなかったことから、改めて説明を受けたのです。


 まず、正式に側室に入るには準備が必要とのこと。じゃあ今日から君は側室です、とはならないそうです。手続きもそうですが、慣習としてまずは婚約の発表。多くは披露宴という形で発表するとのこと。そこから婚約者である有咲さんを連れて一年ほど貴族の社交界に顔を出し、名前と顔を覚えてもらいつつ横のつながりを作ります。


 これは、貴族社会の外から正室、側室を娶る際に行われる慣習なのだとか。何でも、そうして社交界で十分に横の繋がりを作る機会を作らなければ、一部からは卑怯だと反発を受け、また有咲さん自身もいざという時に頼る相手が無くて困ることになるとのこと。


 そうした慣習がある都合上、まずは婚約披露宴をしなければなりません。これから有咲さんとルーズヴェルト侯爵は、この婚約披露宴の準備に入るとのこと。

 そして、披露宴の様式は庶民的なものを取り入れて行うそうです。


 というのも、例えば貴族同士の婚約ですと儀式的と言いますが、そういった複雑な手順、礼節を守りながらの披露宴になるそうです。しかし庶民間では婚約自体一般的ではないため、そうした送り出しの習慣も無く、当然有咲さんも作法を知っているはずもありません。

 ですので、最低限民間で行われている結婚披露宴での作法を取り入れ、それを本来の婚約披露宴の儀式に替える予定なのだとか。


 で、肝心の民間で行われている結婚披露宴での作法なのですが。まず、花嫁は母親から送られたドレスを着るとのこと。ドレスは庶民には高価すぎる衣装である為、結婚の都度に仕立てるのは厳しい。ですから、多くは親などから受け継いできた披露宴用のドレスを着用するのだとか。

 当然、有咲さんはそのようなドレスの伝手などありませんから、保護者でもある私が用意することになるのが筋、だと言われました。


 次に、娘を送り出す父親が何らかの装飾品を送るというもの。これは多くがネックレスになるらしいのですが、世の父親は結婚披露宴で娘を送り出す際に、その後の幸福を祈願して装飾品をプレゼントするそうです。

 基本的には縁起の良いものを象ったものが良く、なおかつ壊れにくく失くしづらいものがベストだそうです。日頃着けていても邪魔にならず、指輪などと違い外しても些細な拍子に失くしづらいという理由でネックレスが選ばれることが多いのだとか。


 当然、これも保護者である私が用意せねばなりません。


 つまりまとめると、まず有咲さんは正式に側室となる前に、婚約者として一年間社交界で顔見せをしなければならない。その最初の段階として、婚約披露宴をしなければならない。

 その婚約披露宴で必要なドレスとネックレスは、私が用意してあげなければならない。

 ざっと、そういったところです。


 そのような説明を、王都に向かう馬車の中で聞きました。空気を読んでくれたのか、金浜君と三森さんは別の馬車で王都に向かいました。

 ウェインズヴェールから王都までの道のりは、私と有咲さんの二人旅になりました。


 一通りの説明も終わると、有咲さんは真剣な表情で語りました。


「ねえ、おっさん。アタシの、最後のお願い。わがまま。聞いてくれないかな」

「最後だなんて」

「それっきりだから。これが終わったら、もうアタシはおっさんのことが好きな有咲じゃない。おっさんの姪っ子で、侯爵様の嫁になる美樹本有咲にちゃんとなるから」


 言われて、私は返す言葉を失いました。覚悟と、気迫。そういったもので切羽詰まったようになった声が、私に否定の句を躊躇わせました。


「アタシさ。最後は幸せな気持ちで嫁に行きたい。大好きな、雄一お兄ちゃんの準備してくれたドレスを着て、大好きな雄一お兄ちゃんからネックレスを受け取って、大好きな雄一お兄ちゃんに見送ってもらいたい」


 悲痛な、今にも泣き出しそうな声で有咲さんは語ります。


「だからさ。おっさんも頑張ってよ。アタシの為に、一番のドレス。一番のネックレスを準備して欲しいんだ。そんで、ちゃんと笑顔で見送ってほしい。そしたらアタシ、ちゃんと幸せになれるって思うから」

「有咲、さん」


 何と言う方が良いのか。どんな言葉で、返せばいいのか。

 三十年以上生きてきたのに、そんな簡単なことさえ分からないまま、沈黙を貫くしかありませんでした。


 ですが、心は決まりました。

 有咲さんがそこまで言うのなら、私も覚悟を決めましょう。


 有咲さんが一番美しく見えるような、そんなドレスを仕立ててあげましょう。

 有咲さんの一生を祝福するような、そんなネックレスで飾ってあげましょう。


 それぐらいしか、私には出来ないのですから。

 有咲さんが選んだ幸せの為に出来ることなんて、それぐらいなのですから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マンガよもんが様にてコミカライズ連載中!
6mhv82sb21f83lsdkkow3af4fucd_1bmn_28e_35p_nrgt.jpg

マンガよもんが様へのリンクはこちら

小説家になろう 勝手にランキング
ツギクルバナーcont_access.php?citi_cont_id=602222539&s


☆Narrative Worksの新連載!☆

異世界チーレム転生できたけど、ヒロインが全員ギャグ漫画の世界の登場人物なんだが?
著者:亦塗☆さくらんぼ



☆Narrative Worksの連載作品一覧☆

無能は不要と言われ『時計使い』の僕は職人ギルドから追い出されるも、ダンジョンの深部で真の力に覚醒する-仕事が回らないから戻れと言われても今更もう遅い、SSS級冒険者として自由に生きていきます-
著者:桜霧琥珀

クラス転移に巻き込まれたコンビニ店員のおっさん、勇者には必要なかった余り物スキルを駆使して最強となるようです。
著者:日浦あやせ

盾持ち令嬢の英雄譚
著者:雨降波近

蒼炎の英雄-異世界に勇者召喚された少年は、スキル『火傷耐性』を駆使して成り上がる-
著者:稲枝遊士

吸血鬼な悪役令嬢に転生した私がSSS級国際指名手配犯となり最強チートスキルで婚約破棄王子や元クラスメイトの勇者などを倒していくお話
著者:稲枝遊士

ツルギの剣
著者:稲枝遊士

ゴブリン・コンバット-異世界のゴブリンに転生したので、地上最強の生物を目指してみようと思う-
著者:殿海黎

池袋ボーイズ(大嘘)
著者:亦塗☆さくらんぼ
― 新着の感想 ―
「 有咲さんが選んだ幸せ」って言ってるけど、「選ばせた」じゃない?主人公が一気にクズに見えてしまった。
[気になる点] まだ国を捨てる可能性を残してるのに敗戦国になりうる貴族の側室なんて論外じゃないの? 平民の側室なんて子か孫で根切りされるじゃん。それが一番の幸せ? この先カルキュレーター無しで絶対の安…
[気になる点] 有咲の幸せとかいいつつ考えてるのが自分の体面と心の安息だけだから違和感が凄い。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ