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04 領都に到着




 有咲さんとの話し合いが失敗に終わったまま、旅は続きました。

 妙に空気が悪い状態のまま、気不味そうにする金浜君と三森さん。私は状況を改善しようと、何度か有咲さんに話しかけてみたのですが、見事に避けられ、結局状況の改善にまでは至りませんでした。


 そんな状態のまま旅は続き、とうとう目的地の一つである領都ウェインズヴェールに到着しました。

 有咲さんがこのウェインズヴェールの領主、ルーズヴェルト侯爵に会いたいとのことでしたので、到着次第連絡を出します。

 その日のうちに侯爵からの使いが来て、すぐに会って話が出来るとのことでしたので、そのまま侯爵邸へと向かいました。


 その道中、有咲さんに尋ねてみます。


「有咲さん、侯爵にはどういった用事があるのですか?」

「アタシに任せとけって。必要なことだからさ」


 と言って、結局詳細は教えてもらえませんでした。とはいえ、有咲さんは信頼できる部下でもあります。その有咲さんが任せろというのですから、ここは大人しく任せておきましょう。

 何より、有咲さんにはスキル『カルキュレイター』があります。そうそう間違いは起こさないはずです。



 侯爵邸には何事もなく到着し、そして程なくして面会の時間になります。


「またお会いできて嬉しく思っているよ、乙木殿」

「こちらこそ。急な連絡でしたが、応じていただけて有り難く思っております」


 私はルーズヴェルト侯爵と握手を交わします。この場には用事のある有咲さんと、付き添いとして金浜君に三森さんも同席しています。


「しかし、乙木殿が勇者様と友好関係にあったとは」

「ええ、仲良くさせて頂いています」


 と、ルーズヴェルト侯爵は言っていますが、恐らくはその程度のことは把握していたはずです。私の店が金浜君たち勇者の一グループの支援者に名乗りを上げたこと。そして実際に、店には三森さんや松里家君を筆頭に勇者の皆さんが訪れていたことも、調べるのはそう難しくないでしょう。


「聞けば、前線基地の方でも活躍したとか。今回は、それに関係する用件かな?」

「いえ。今日は有咲さんの方が用件があるとのことでしたので、私が中継ぎをさせて頂いただけでして」

「ほう、有咲さんとは、そちらの姪っ子さんでしたかな?」


 ルーズヴェルト侯爵の視線を受けて、有咲さんは意を決したような表情を浮かべます。


「あの、侯爵様。実はお願いがあって、アタシは今日ここに来ました」

「ほう、お願いか。内容にもよるが、どういったことをお願いするつもりかな?」


 そう言って、ルーズヴェルト侯爵は優しげに問い掛けます。

 有咲さんは緊張した面持ちで、何やら随分と躊躇う素振りをみせた後、ようやく口を開きました。



「アタシを、侯爵様の側室に迎え入れて下さい」



 その、予想もしていなかった言葉に。

 私は頭が真っ白になってしまいました。


「ふむ。君、それがどういう意味か分かって言っているのかね?」

「はい。よく調べて、よく考えて、その上で選びました。アタシはこうするのが一番だって分かりました。だから、お願いします」

「それにしては、嬉しくなさそうに見えるけれども」


 ルーズヴェルト侯爵は、言ってから私の方に鋭い視線を向けました。

 これはどういうことだ、と責め立てるような視線でした。私は慌てるようにして、有咲さんに問い掛けます。


「有咲さん! 本当に、それでいいのですか?」

「いいっていってんじゃん。もう、おっさんこそなんで今さら慌ててんだよ。こうなるのが一番だって、おっさんも分かってただろ?」

「それは」


 確かに、そうです。考えたことはあります。有咲さんにとって、ウェインズヴェール侯爵家の側室に入るというのは最も良い縁談なのではないか、と。

 話した限り、ルーズヴェルト侯爵は悪い人には見えません。また、立場を悪用して有咲さんに無理を強いるようなことも出来ません。私という取引先が居るのですから、妙な真似は出来ないわけです。


 極めつけには、ルーズヴェルト侯爵は金髪のイケメンで、私よりも若い。有咲さんよりは年上ですが、問題になるような年の差ではありません。

 私のように、有咲さんの未来に影を落とすような、そんな男ではないはずです。


 ですが、あまりにも突然すぎます。有咲さんは、私のことを今でも好きだと、そう言ってくれました。

 未練を感じるわけではありませんが、つまり有咲さんはこの人、ルーズヴェルト侯爵を男性として好ましく思っているわけではないはずです。


 なのに、なぜこんなにも急に。


 様々な思考が脳裏に入り乱れ、ついぞ私の口から言葉が漏れることはありませんでした。

 絶句している間にも、有咲さんは話をまとめていきます。


「侯爵様。それで返事は?」

「ふ、ふむ。まあ私としては問題はないのだが。その、君はそれでいいのかい?」

「はい。これがアタシにとって、一番の幸せですから」


 その一言には、妙に重みと、実感が籠もっていました。それだけ有咲さんが本気で、本心から思っているからなのでしょう。


 有咲さんが本気で、自分の幸せの為にこれが一番だと言うのなら。

 私には否定する材料が何もありません。


 彼女の人生は、彼女が決めるべきですし。

 私みたいな、人生を呪うような名付け親の考えなど信用に足りませんし。

 そして有咲さんには、絶対に間違わないスキル『カルキュレイター』まであります。

 何一つ、言うべき言葉が出てきません。


 しばらく、侯爵は私の反応を伺っていた様子でした。しかし私が何も言わないと分かると、有咲さんに答えを返します。


「分かった。元より君を側室に迎える準備はあったのだ。その方向でまた話を進めさせてもらうよ」

「ありがとうございます」

「詳細については、また追って連絡を王都の方へ寄越そう。それまでは今まで通りの生活を続けるといい」

「分かりました」


 有咲さんとルーズヴェルト侯爵の、どこか事務的な会話が響きます。

 私の耳はこれをまるで右から左に通り抜けさせているかのように、全く聞き入れてくれません。

 まるで意識が遠のくかのように、二人の会話が聞こえなくなっていきました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] おいおいおい、これで「幸せになってくれ」と有咲を側室に送り出したら、過去最悪の主人公が爆誕してしまうぞ? さすがにここで止めるよね? そんな鬱展開は見たくない
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