16 魔法とスキル
五日ほどかけて、かなりの本を読みました。そのお蔭で、魔法とスキルについてかなりの知識を蓄えることが出来ました。
まず、魔法とスキルの違いについて。
スキルとは、条件の達成による恩恵の設定です。何らかの条件があって、それを満たした時に得られる恩恵も設定してある。それがスキルというものの構造です。
例えば闇魔法スキル。条件は十分な魔力の消費。そして得られる恩恵は闇魔法の発動です。これが例えば生命吸収のスキルであれば、条件は対象への接触。そして得られる恩恵は体力の吸収です。
重要なのは、条件と恩恵の間に因果関係はありません。世界のルール、つまり物理法則のようなものを無視した、新たな限定的な上位ルール。それがスキルというものと言えるでしょう。
そして、魔法とは手順を追うことにより発生する現象です。
例えば闇魔法であれば、必要な魔法陣を描き、魔力を流すことで、一定の魔法現象が発生します。
これはスキルとはことなり、この世界そのもののルールに則っています。つまり物理法則のようなものに従って発生する現象で、ちゃんと前後に因果関係があります。
これを知ることで、私は重要な知識を得ることが出来ました。
まず、魔法は正しい手順を踏めば、スキルを前提とする特殊な魔法を除いて全ての属性を全ての人間が使えるということ。
魔法陣を描き、魔力を流す。これだけが魔法の発動に必要な行為です。そこに属性の適性やスキルの有無は関係ありません。この世界がこの世界である限り、必ず起こせるのです。
では、ステータスにおける【属性】とは何か。これは、言わばスキルに近いものです。属性持ちの人間は、なんと魔法陣を介することなく魔法を発動できるのです。
例えば、属性なしの私は闇魔法のダークボールを発動するために、魔法陣を書いてそこに魔力を流し込むという過程が必要です。
ですが、闇の属性持ちの人間はその存在が闇魔法の魔法陣のようなものなのです。ですから、魔力を自分の身体に流すだけで魔法が使えます。
ただ、身体を魔法陣の代わりにするため、魔法一種類ごとに身体が慣れていかないと、ちゃんと魔法は発動しません。そこが難しいところだったりします。
まあ、私は属性なしなので、属性魔法については何の関係も無い話なのですが。
重要なのは、魔法陣さえ知っていればどんな魔法でも使えるということです。
この知識によって、私は魔法を使えるようになるべきだと判断しました。
理由は幾つかありますが、最大の理由は私のスキルを活かす為です。
私は無数のスキルを持っています。スキルとは条件を満たさなければ恩恵が得られません。そして、私のスキルの多くは魔物や植物、鉱物から得たものだと女神様は言っていました。
そうなると、スキルの効果を得るための条件をそもそも満たせないことになります。つまり私は、持っていても効果の無いスキルを大量に所持しているのです。
この、大量の不良在庫を利用する方法は無いかと考えました。
スキルの発動条件を変える方法は無いかと調べましたが、存在しませんでした。
逆に私がスキルの発動条件に合わせて肉体を変化させる、という手段も考えました。が、それだと非効率です。使いたいスキルが変わるたび、身体を作りかえる魔法を使っていてはキリがありません。というか、どんな副作用があるかわかったものじゃありません。
どうしたものか、と悩んでいるところで見つけた魔法。それが方向性を決めました。
その名も、付与魔法。
非常にシンプルな魔法で、属性やスキルを物品や他人へ付与するだけの魔法です。
本来の使い方は、自分が持つスキルや属性を、仲間に付与して分け与える目的で使います。
ただ、生物は生命活動による新陳代謝があるせいで、付与したスキルや属性は時間が経つと剥がれて、元に戻ってしまいます。
しかし、例えば石や鉄にスキルを付与すると、素材が劣化して壊れるまでスキルは維持されます。属性もまた、維持されます。
けれどこのやり方は主流じゃありません。
原因は属性とスキル、それぞれ異なります。
属性付与は、属性という性質が特殊であるため、付与可能な物質が限られてくるのです。また、付与するための付与魔法の魔法陣も複雑化します。
そのため、魔法銀、通称ミスリルと呼ばれるような特殊で優秀な金属に属性を付与した高価な魔法剣ぐらいでしか使われません。
しかも物質には慣れというものがありませんから、熟練のよく鍛えられた属性を持つ人から付与しないと、そもそも魔法すら発動しません。
そして優れた属性使いは、自分の力の優位を守るため、滅多に魔法剣への付与には協力しません。
これが、物体への属性付与が流行らない理由です。
そして、スキル付与が流行らないのはもっと深刻です。
スキルの場合は、大抵の物体に付与が可能です。けれど、付与すること自体に何の意味もないのです。
何しろスキルには発動条件があります。人間のスキルを鉄や木や花や石に与えたところで、そもそも発動条件を満たさないのです。
つまり、ちょうど私の悩みと同じ現象が起こるわけです。
よって、物体へのスキル付与は誰も使おうとしません。
けれど、ここに例外が居ます。
そう、私です。
私は、人間では条件を満たせない無数のスキルを持っています。
そしてその数々のスキルを、条件を満たせる物質に付与魔法で付与すればどうなるか?
単なる石が鉄より硬い礫になります。
ボロの鉄剣が魔物を豆腐のように切り裂けるようになります。
もちろん、まだ実際に付与をして全てを試したわけではないので、そこまで上手くいくかは分かりません。
けれど、私の数々の廃棄スキルを有効活用する可能性があるとしたら、それは付与魔法だけでしょう。
そこで私は、付与魔法を習得することにしました。
そのために、調べ物を五日で切り上げたのです。