01 旅の終わり
本日から連続投稿開始です。宜しくお願い致します。
三森さんが無事、というべきかはともかく目覚め、翌日には体調が回復したのもあり、その後は何事もなく時間が過ぎてゆきます。
基地の兵士の方々に感謝されつつ、各所を視察して新たな魔道具の開発のためのアイディア収集。そしてガウェイン大佐から正式に感謝状を送られたり、といろいろありました。
その間、有咲さんはふさぎ込んでいるというわけでもなく、かといって元気でもなく。どこか遠い目をしながら、何かを考え込んでいる様子でした。
そして最近はずっと激しかったスキンシップが収まり、むしろ妙に距離を置くような素振りさえ見せ始めたのです。
少々寂しい気持ちになりつつも、元々の計画通りなのですからこれで良かったのだ、と自分に言い聞かせます。
そうして数日ほどを基地で過ごした後、いよいよ王都へと帰る日がやってきました。
せっかくだから、という話になり、帰路は金浜君と三森さんのお二人も加えた四人の旅となることに決まりました。
滞在最終日、基地を発つ前に、ガウェイン大佐と挨拶を交わします。
「では乙木殿、重ね重ねになるが本当に感謝する。貴方がいなければ、今頃この基地は無論、兵たちの多くの命が無事では済まなかっただろう」
「こちらこそ、分かっていて作戦を止めませんでしたから。その分やるべきことをやったまでですよ」
「何にせよ乙木殿に救われたという事実は揺るがぬよ。この恩は、いつか必ず返す。困ったことがあれば、いつでも頼ってくれたまえ」
「ええ、そうさせて頂きます」
そうして私はガウェイン大佐と握手を交わしました。
後は何事も無く、四人で基地を出発。最寄りの都市までは、徒歩での旅になります。
基地を出発した直後、有咲さんがふと口を開きます。
「そうだ、おっさん」
「はい、何でしょう」
「帰りにさ、一回あそこに寄ってくんない? ウェインズヴェールだっけ、そこの領主さんのとこ」
「それは、別に構いませんが」
恐らく向こうは歓迎してくれるはずでしょう。が、何かやり忘れた、伝え忘れたことなどあったでしょうか?
用件が思いつかず、つい首を傾げてしまいます。
「何かあったでしょうか?」
「いや、アタシ個人の話だから。おっさんは気にしなくていいよ」
そう言って、有咲さんは私の前まで駆け寄って来てから言います。
「よーし、そうと決まれば急がないとな! やりたいこと、やるべきことはいっぱいだからな。っしゃあ、やる気出てきたぞぉ!」
どこかわざとらしくも感じる声色で、そんなことを言い始めます。そして有咲さんは早足になりながら、一人で道を先行していきます。
そんな様子を見て、私だけでなく同行者の金浜君と三森さんも訝しみます。
「乙木さん。彼女、何かあったんですか?」
「ええと。あったと言えばあったのですが」
「やっぱり、あの時の私のせいでしょうか?」
三森さんが、申し訳なさそうに俯きます。
「気にしないで下さい、三森さん。私もあの時はあれで問題ないと判断しました。それに、先程の有咲さんの態度の直接の原因とは考えづらいですし」
「そう、でしょうか」
三森さんは納得していない様子で、不安げに俯いたままです。
そんな様子を見かねてか、金浜君がパン、と手を叩いてから提案します。
「じゃあ、こうしましょう。一度、沙織は美樹本さんと話をしてくる。謝った方がいいなら謝る。で、俺は乙木さんから詳しい話を聞かせてもらいます。何があったのか、何が原因なのか。二人で考えた方が答えも分かりやすいはずですから」
「そう、だね。うん。分かった。私、有咲ちゃんに謝ってくる!」
金浜君の提案が効いたのか、三森さんは先行する有咲さんを追って、駆けていきました。
そして取り残された私と金浜君。
「さて、乙木さん。いろいろ聞かせてくれませんか? そもそもの美樹本さんと乙木さんの関係から、全部」
核心を突くように、金浜君は言いました。