25 聖女陥落
戦闘、と呼べるかは怪しいですが、ともかくアレスヴェルグとの戦いは決着が着きました。上空にはまだそれなりの数のドラゴンが存在するようですが、どうやら指揮官を失ったことにより瓦解し始めているようです。一匹、また一匹と明後日の方向へと飛び去っていきます。
私はそれを確認すると、これで基地を守りきったのだと判断し、一息ついてから有咲さんの方へと振り向きます。
「これでおしまいのようですね」
「そうだな。いや、それよりおっさん。なんだよあの黒いやつ!」
有咲さんは、驚いたような表情を浮かべてそう訊いてきます。
「何だと言われると、そうですね、私が本気で戦闘する時のスキルでしょうか」
「なんだよそれ。それって、それってさぁ」
有咲さんは俯いて、少し震えた後、がばっと私の肩に掴みかかってきます。
「ちょーかっけえじゃん!」
そして、目を輝かせながらそんなことを言い始めました。
「なんか黒くて、やばくて、悪い感じがしてさあ! ちょいワルって感じでちょーイカしてんじゃん! なにあれ、普段からもっと見せろよ!」
「いえ、普段から使うには少々強すぎる力ですので」
「なんだよそれ、なんかもうその言い訳もなんかかっけーし!」
どうやら私の新たなスキル達は、有咲さん的にはアリなようです。
と、そんな雑談をしていた時です。
突如、ドラゴン達が旋回する上空で強烈な光が炸裂。空がまばゆい光に包まれたと思った次の瞬間には、なんとドラゴンは一匹残らず全滅。
力なくドラゴン達が墜落していくのが見えます。
その一部は基地内部にも落ちてくるように見えましたが、不思議なことに見えない壁のようなものがそれを阻み、ドラゴンの死体が基地の施設を破壊するようなことはありませんでした。
突然の事態に何事か、と思っていると、上空から声と共に人影が舞い降りてきます。
「乙木さん! 無事ですか!」
それは勇者、金浜君の声でした。
降りてくる人影は、金浜君と三森さん。どうやら何らかの魔法で空を飛んでいるらしく、ふわりと広場の中央に着地します。
恐らくはあのドラゴン達を瞬殺したのが金浜君の力であり、基地を守ったのは三森さんの力でしょう。
さすが勇者と聖女、規格外の力です。
「ええ、無事ですよ」
「こっちに四天王のアレスヴェルグが来たと思うんですが、どこに居ますか?」
「彼は私が既に倒してしまいましたが。何か問題がありましたか?」
「た、倒したっ?」
今度は金浜君が驚く番でした。どうやら私が四天王を倒せるとは思っていなかったようです。
「はい。問題なくアレスヴェルグは撃破しました。証拠といいますか、証言はこの広場に居る兵士の方々に聞けばよいかと」
「あ、いえ。倒せたと乙木さんが言うなら、実際そうなんでしょうね。いやあ、まさか乙木さんがそこまで強いとは思ってませんでしたよ!」
そして、どうやら私がアレスヴェルグを撃破したことを信用してくれる様子。
「乙木さんなら何か不思議な魔道具を使って四天王相手でも時間を稼げると信じていましたし、場合によっては倒せるとは思っていましたけど。さすがに無傷で、こんな短時間で倒してしまえるとは予想もしていませんでした」
「なるほど」
確かに、いくら私が強くとも、勇者である金浜君からすれば自分ほどには及ばないと考えるでしょう。そして金浜君にとって対四天王戦が楽勝だったとしても、私や有咲さんがそうとは限りません。
実際、金浜君と三森さんが駆け付けるのが今になる程度には時間がかかっているのですから。その予想は無理のない自然なものでしょう。
「そういえば、例の四天王はどうなりました? エルダーレイスの」
「ああ。奴は俺と沙織を闇の異空間に封じた後、すぐに逃げ出しましたよ。どうやら集めた魔物の軍隊は俺たちにぶつける戦力じゃなくて、俺と沙織を封じる闇の異空間を生み出す為の生贄だったようです」
「ほう、そういうことですか」
つまり魔王軍は勇者と聖女を異空間に封じて無力化しているうちに基地を占拠。人質を取ることで結果的に勇者と聖女を無力化。基地を拠点として奪取しようとしていたわけですね。
アレスヴェルグも基地の人間を積極的に殺そうとはせず、捕虜にすると言っていましたから、その点から考えても向こうの作戦は大筋ではそういった感じだったのでしょう。
しかし、基地には私が居た為に人質は取れなかった。
結果として時間を稼がれたにも関わらず、勇者と聖女を無力化するには至らなかったというわけですね。
「何にせよ、目立った被害は無かったようで良かったです」
「ええ。作戦で前線に出ていた兵士の皆さんも、今は撤退している最中です。負傷者ぐらいは出るとは思いますが、死者、重傷者は居ないと思いますよ」
「それは良かった」
私は金浜君と話しながら、ふと三森さんの方に視線を向けます。
すると、なぜか三森さんは顔を俯向け、具合悪そうに身体をぷるぷると震わせています。
「三森さん、どうなさいましたか?」
「いえ、あの。大丈夫ですので」
そう答えた三森さんの声は、とても大丈夫そうには聞こえません。震えを抑え込みながら、どうにか絞り出したような声です。
「とてもそうは見えません。本当に大丈夫なのですか?」
「はい、平気です。なので、その」
「しかし、敵から何か呪いのようなものを受けた可能性もあります。ここは安静にしておいたほうが」
と、言いながら私が三森さんに歩み寄った時でした。
「んほぉ!」
奇声を上げ、白目を剥いた三森さんは、そのまま気を失って倒れ込んでしまいました。
「さ、沙織っ!」
「三森さん!」
慌てて私と金浜君で三森さんに駆け寄ります。どうやら本当に気を失っている様子で、しかも何かの影響により身体はびくびくと痙攣しています。
危険な状態だと判断した私は、すぐさま三森さんを抱え、救護室へと運び込みました。





