23 乙木雄一の本気
私は瓦礫の中からゆっくりと身体を起こし、服に付いた埃を払いつつ呟きます。
「さすがに四天王ですね。これまでに戦ったどの魔物よりも強い」
『なっ! き、貴様、なぜ無事なのだ!』
「理由ですか? 端的に言えば、ステータスが高いからですよ」
『ステータスだとォ?』
「気になりますか?」
『見せろ!』
まさか見たがるとは思っていませんでしたが。見せて減るものでもありませんし、見せてあげましょう。
恐らく、これが彼の最後の望みになるのですから。
「こちらが、私のステータスになります」
そう言って、私は自分のステータスボードを表示し、アレスヴェルグに合わせてサイズを大きく変えて見せつけます。
【名前】乙木雄一
【レベル】796
【筋力】SS
【魔力】SS
【体力】SS
【速力】SS
【属性】なし
【スキル】ERROR
『な、何だそのステータスは! 勇者でもないのに、何故そのような力を手にしているのだ!』
私のステータスに驚いた様子のフレスヴェルグが問いかけてきます。
せっかくですし教えてあげましょう。
「私は『疫病』というスキルを持っています。これは人を疫病で侵すことで経験値を得られるスキルです。私はこのスキルを使い、常に自分自身を疫病に侵し続けました。身体能力がCランク冒険者相当まで落ちる程度の、かなりキツめの疫病でしたので、順調にレベルは上がり続けていましたよ。お陰で今では、目標の千レベルまで視野に入ってきました」
『な、何故だ! そのようなスキル、ただの人間が持ちうるはずが無い!』
アレスヴェルグの言う通り。私のこのスキルは、女神様の手違いで獲得することになったスキルですからね。
とはいえ、そこまで詳細を教えてやるつもりはありません。そろそろ終わりにしましょう。
せっかくですから、今まで相手が『弱すぎて』使うことの出来なかったスキル、戦法を試していきたいと思います。
「それでは、アレスヴェルグさん。冥途の土産はお楽しみいただけましたか?」
『クッ! 調子に乗るなよ、人間! 貴様が強いとは言え、そのステータスは我とほぼ同等! ましてや我は筋力、魔力共にSSSに到達しているのだッ! 貴様に敗北する道理など皆無!』
「そうですか、それは良かった」
私はニコリと笑います。
「それだけ強ければ『耐えて』くれますね?」
次の瞬間。私はこれまで一度も使わずに封印してあったスキルを使いました。
『は。へ?』
まるで糸が切れた人形のように。
アレスヴェルグの巨体が、力なく崩れ落ちます。
『な、なにが』
「なるほど、三割ほどの力でもこれだけの効果があるのですか。やはり、うかつに自分へ使わずにいて良かった」
『なにをほざいている!』
「スキルですよ。言いましたよね、私は『疫病』スキルを『ずっと使い続けてきた』と。レベルが八百にも到達するほど使い込んでいるわけですから、当然スキルは進化しますよ」
私が『疫病』を使い続けることで得た、さらなる力。
そのスキルの名前は『災禍』。疾病だけでなく、根拠のない呪詛のような力も含め、他人に付与することが可能になったスキルです。
その名前があまりにも禍々しいこと。そしてどれだけの効果を発揮するかその辺の雑魚魔物相手ではまるで計測出来なかったこと。例えばゴブリン程度ではコントロールの練習にもならず、一瞬にして朽ち果て死んでしまうことから、これまで使うことの無かったスキル。
レベルが六百台の中盤に差し掛かった頃に習得したものですが、いままで試しに使うことすらろくに出来ないでいました。
ですが、今日は都合がいい。
すぐに死なない上、ちょうど無抵抗になってくれるほどよい敵が目の前に居るのですから。
「さて、アレスヴェルグさん。せっかくですので、貴方を対象に色々試させていただきますね」
『ため、す?』
「ええ。今まで使えなかったスキル達。そしてスキル同士を組み合わせた戦法。とっくの昔に出来るとは分かっていたのですが、使う相手がいなかったものですから。今日はむしろ、お越し頂いてありがとうございます、と言いたいぐらいですよ」
かつて有咲さんのカルキュレイターを使用した時。私は『災禍』も含め、数々の力を得る未来を予想することに成功しました。
しかし、得た所で使う相手がおらず、テストすら出来ずにいました。
今日はちょうどよく、魔王軍の四天王が来てくれたのです。基地を防衛するついでに、一通りテストを済ませてしまいましょう。