22 案の定の襲撃
そうして、ちょうど有咲さんと改良案についての話を終えた時でした。
「襲撃だぁ! ドラゴンが攻め込んできたぞォ!」
と、遠くで兵士らしき者の叫び声が響きます。
私と有咲さんは顔を見合わせ、頷きます。
「やっぱ、予想通りの展開になったな」
「ええ。一刻も早く救援に向かいましょう」
そう言って、私と有咲さんは共に部屋を飛び出します。
騒ぎの大きな方へと駆けていくと、どうやら中心地は兵士達が集合していたあの広場のようです。
既に作戦通り進軍を開始した後なので、あの広場も含め、既に基地はかなり手薄な状態。故に上空から攻め入るドラゴン相手に十分な迎撃が出来ず、そこまでの侵入を許してしまったのでしょう。
私と有咲さんが広場に駆けつけた頃には、既にドラゴンが基地内に着陸までしており、兵士達は抵抗する気力も失ったのか、手にした武器を構えることも無く項垂れています。
「これは、どういう状況でしょうか」
「俺たちを捕虜にするつもりらしい」
私の呟きに、ちょうど近くに居た一人の兵士がぼやきます。
詳細を聞き出そうとした所で、ちょうど広場に着陸している巨大なドラゴンが口を開きます。
『我が名はアレスヴェルグ! 魔王軍四天王が一柱、カイザードラゴンのアレスヴェルグである! 諸君らの基地は我々が占領する! 命が欲しくば即座に投降せよ! 逆らうものは八つ裂きにしてくれよう!』
巨体から発せられる声は、奇妙なことにただの唸り声のような音にしか聞こえません。しかし、なぜか脳内に直接言葉が響くようにして意味が伝わります。
恐らくは、このドラゴンがテレパシー的な能力を持っているのでしょう。
ひとまず、ここはカイザードラゴン、アレスヴェルグの言いなりになるつもりはありません。私は一人、兵士たちの合間を抜けて彼の目の前まで歩み出ます。
『何者だ、貴様!』
「乙木雄一という、しがない魔道具店の店主です」
『何ぃ?』
「捕虜になれという提案、受け入れかねます。ですので、私一人でも抵抗させていただこうかと思いまして」
『ほざくなよ、人間が! やれッ!』
アレスヴェルグがそう命令した途端でした。上空を旋回するように飛んでいたドラゴン達が何匹も急降下してきます。
そして地面すれすれで減速し、滞空したまま口を開き、ドラゴンブレスと思わしき攻撃を繰り出してきました。
私は即座にスキルを使用。『疫病』により腕を鬱血させ、そこから『鉄血』にてオリハルコンの壁を展開。
いかにドラゴンブレスと言えども、最高峰の金属であるオリハルコンを焼き払うことは不可能だった様子。
とはいえ、熱によるダメージは存在するのですが。ただこれは、既に私のステータスが十分に高いお陰で無視できる程度のものです。
ドラゴンブレスが途切れると同時に、私はオリハルコンの壁を収納。即座に駆け出し、ドラゴン達に接近します。
そのまま鞭のようにオリハルコンの刃をふるいつつ、これらを『貧乏ゆすり』で高速振動させ、切れ味を上昇させます。
そうしてドラゴン達を襲った無数の刃は、まるで抵抗を感じることも無く、スパリとドラゴンの首や頭、胴体を切断。
一瞬のうちにして、下っ端らしきドラゴン達は全滅しました。
しかし親玉である四天王アレスヴェルグは、オリハルコンの刃であってもダメージが入りませんでした。鱗に傷ぐらいは付いたように思いますが、切断するには至っていません。
『ほう。貴様、人間にしては少々やるようだな。だが、我にはその程度の攻撃は通じんぞ!』
アレスヴェルグはそう宣言すると同時に、私へめがけて巨体を振るい、尻尾による打撃を繰り出します。
これを私は腕にオリハルコンを纏いつつ防御します。
が、さすがに体重差もあり、威力も桁違いでした。私は踏ん張り切れずに、そのまま吹き飛ばされてしまいます。
勢い良く広場の端まで飛ばされ、背中から壁に激突。轟音を経てて壁は崩れ落ち、私は瓦礫の中へと埋もれてしまいます。
『ふん、他愛もないわッ! グハハハハハッ!』
自慢げなアレスヴェルグの笑い声がテレパシーで伝わってきます。同時に、勝利の雄叫びのような唸り声を天に向かって放っています。
まるで勝ったような空気を出しているところに悪いのですが、私は無事です。
ひとまず、瓦礫の中から脱出しましょう。