21 貧乏ゆすりエンジン
私の言葉に疑問を抱いたのか、有咲さんはかなり訝しげに顔をしかめています。
「あのさ、おっさん。アタシは高周波ブレードの話してたんだけど。なんでチェーンソーの話になるわけ?」
「そうですね。では、一から説明していきましょうか」
私はそう告げて、説明に本腰を入れます。
「まず、有咲さん。地球人類の発明の中で、最も偉大な発明品は何だと思いますか?」
「えーっと、なに急に。わかんない。スマホ?」
「そう、それは歯車です」
「話きいてねーな?」
スマホなどと言われては話の腰がバキバキに折れてしまうため、やむをえず強行的に説明を続けます。
「地球人類は回る板、ただそれだけのものをいくつも組み合わせ、様々な発明をしてきました。そうしたあらゆる発明の起源であり、必要不可欠な存在が歯車なんです」
「はいはい。で、それがチェーンソーと何の関係があるわけ?」
すっかり有咲さんは聞き流す姿勢に入っています。最近は私の気合の入った説明、ちょっとばかし余計なうんちく入りのものをこうして聞き流すようになってしまいました。
最初の頃は感心しながら聞いてくれていたというのに。少々悲しいですが、説明を続けていきます。
「歯車を偉大な発明たらしめるものは何か。それは回転です。そして回転とは、二つの軸の上下運動の組み合わせでもあります。要するに振動と歯車。この二つがあれば地球人類の歴史上存在してきたあらゆる発明品を作ることが出来ます」
「ほうほう。んで?」
「そこで私は、以前から考えていたのです。貧乏ゆすりのスキルを付与した物体を動力にすれば、歯車を使って機械的な仕組みを持つ魔道具を開発することだって出来るのではないか、と」
「そっかそっか。で?」
あまりにも生返事なので、本当に悲しくなってきました。が、説明を続けます。
「そしてここに来て、耐刃ローブの問題も関わってきます。高周波ブレードが絡まってしまう、という問題点が挙げられていましたね?」
「だな」
「そこで私は逆に考えたのです。絡まってしまってもいいさ、と」
いよいよ説明は佳境に入ってきます。が、有咲さんは興味も無さそうにしています。
「まず、耐刃ローブの裾が邪魔になるとのことなので、そもそもの耐刃ローブを作業用のつなぎ服のような構造で仕立てます。これを仮に、耐刃つなぎと呼びましょう。そうすれば、着用者の動きを邪魔するようなことはありません」
「はいはい」
「そして武器が耐刃つなぎに触れた時に絡まることで、武器の振動機構を停止します。ちょうど、地球にも存在する繊維入りの防護服と同じ仕組みになります」
「いや、そんなこと言われても見たこと無いし」
まあ、確かに一般の女子高生が繊維入りの防護服の仕組みを知っているということはそうそう無いでしょう。
「そして有咲さん。この繊維入りの防護服が、どのような構造の機械による負傷から身を守ってくれるのかについてですが。それがまさに、チェーンソー。最初の話に戻るわけです」
「あーそう」
「既存の高周波ブレードのような、直接的に貧乏ゆすりスキルを付与した物体で攻撃するのではなく、振動をエンジン部分に使い、機械的な仕組みで稼働する武器を作るのです。チェーンソーのような構造の武器であれば破壊力は申し分ありませんし、仮に耐刃つなぎに触れてしまったとしても、耐刃スキルの付与された繊維が刃に絡まって停止します。攻撃力を落とすこと無く、かつ既存のものより安全かつ頑丈な武器になるというわけです」
私が言い終わると、有咲さんはじとりとした目でこちらを睨みながら言います。
「要するに、貧乏ゆすりスキルをエンジンに使ってチェーンソーを作る。こいつを高周波ブレードの代わりに使う。耐刃ローブをつなぎっぽく仕立てる。そうすれば今日挙がった問題は全部解決するってことだろ?」
「まあ、簡単に言えばそうなりますね」
「だったら最初っからそう言え!」
バシン! と有咲さんに肩を叩かれ、怒られてしまいます。
私としては退屈になりがちな説明を盛り上げるため、物語性を盛り込んだ解説をしたつもりだったのですが、それが逆効果だったということでしょう。
個人的には納得は出来ていませんが、とはいえ有咲さんは忠告をしてくれたわけですからね。お礼を言わなければなりません。
「ありがとうございます」
「なんで? ねえ、なんで叩かれて感謝すんの? きもいじゃん?」
ずいぶん久しぶりに、有咲さんにキモいと言われたような気がします。
6/8 本文修正
作中でアラミド繊維入りの作業服、という表現をしておりましたが、これは作者の勘違いによるもので、実際の作業服にはアラミド繊維は含まれておりません。
その為、間違った記載をしていた部分を修正致しました。





