15 生きるための知識
私の追放が決まり、ようやく自由に行動が出来るようになりました。
マルクリーヌさんの監視付きではありますが。しかし、この世界についての調べ物が出来るのは大きな進展です。しかも王宮の資料を読めるのです。確実に私の助けとなるでしょう。
問題は、期限が一週間であること。十分に必要な知識を詰め込むことが出来るか不安です。
時間との勝負。一刻も早く、調べ物を始めてしまいましょう。
「というわけで、マルクリーヌさん。すみませんが、魔法やスキルについての知識を纏めた本などが置いてある場所にご案内頂けませんか?」
「何が『というわけ』なのか分からんが。まあ、構わんさ。乙木殿には自由にさせるよう仰せつかっているからな」
謁見の間を出てから早速、私はマルクリーヌさんにお願いをします。
そして案内された場所は、大図書室という場所でした。多くの資料はこの部屋に纏められていて、魔法やスキルについても基礎から応用まで詳しく学べるそうです。
「助かりました、マルクリーヌさん」
「いい、気にするな」
感謝もそこそこに、私はすぐに調べ物に取り掛かります。
不思議なことに、異世界の文字はまるで私が読み慣れた言語のようにすんなり理解できてしまいます。まるで日本語のような感覚です。
これは恐らく、転移した人が全員そうなのでしょう。言葉の壁というのはとても大きいですからね。そこを女神様がうまく調整してくれたのでしょう。
私は本の背表紙から内容を推察し、次々と魔法やスキルに関する物だけを手にとっていきます。大量の本を抱え、読書の為に用意されている机まで運びます。
「こ、こんなに一度に読むのか?」
「いえ、読みませんよ?」
私はマルクリーヌさんの疑問を否定します。
「恐らく実際に目を通すのはこの中の一割にも満たないと思います。数だけ集めて、ざっと目を通して、理解しやすそうなもの、有用そうなものだけを厳選するんです。そうして選んだ本を集中して読み込むのが最も手っ取り早いですから」
「なるほど。だが、それだと読まなかった本に重要な情報が残されていた場合はどうする?」
「どうもしません。時間いっぱい、読めるだけの本を読むだけです。それで手に入らなかった情報は、取らぬ狸の皮算用ですよ」
「とらぬた、ぬき? 分からんが、要するに全力を尽くしてダメだったものは諦めるしか無いといったところか?」
「まあ、そんな感じですね」
次々と本の中身を物色しながら、雑な会話をマルクリーヌさんと繰り広げます。
その後、三十分ほどかけて本を選び抜き、そして選んだ本を順に読んでいきます。読むだけなのでマルクリーヌさんは暇になったのか、一緒になって適当な本を読み始めました。
そうして大図書室の閉室時間が近づいた頃になって、ようやく今日厳選した本を読み終わりました。
「どうだ、有意義だったか?」
「はい、とても」
私はにこりと笑いながら、マルクリーヌさんの問いに頷きます。
「明日はここに無い本を読むのだろう? この調子でいけば、一週間と待たずに大図書館の魔法書、スキル書を読み尽くしてしまうだろうな」
「あ、それは無いです。また同じ本を厳選し直しますので」
私が言うと、マルクリーヌさんは妙な視線でこちらを睨んできます。
「お前の行動は私には予測が難しい。理由を説明してくれ」
「えっと、単純な話です。今日読んだ本のお蔭で、私の知識は増しました。その上で、今日の厳選に漏れた本も洗い直します。すると恐らく、新たに興味の湧く本が出てくるはずなんです」
私の説明に、マルクリーヌさんは驚いたような顔をします。そしてすぐに頷き、納得した様子で唸ります。
「なるほど。そうすれば一冊の漏れも無く、必要な本を厳選できるというわけか。繰り返し篩にかけていくようなものだな」
「はい、そんな感じですね」
「えらく丁寧な手順で本を読むのだな、乙木殿は」
「はあ、まあ。趣味でしたので」
沢山の本をどれだけ効率よく読んでいくか。それは大学生時代に散々チャレンジしました。結果本の読み過ぎで授業に出なくなって留年、退学というコースに入ってしまいましたが。
本日の更新はここまで。
そろそろ、乙木の無双が始まります。
乙木の活躍が楽しみ、という方はぜひブックマークや評価をして頂けると幸いです。