18 強襲作戦
ガウェイン大佐は、いよいよ作戦についての詳細を語り始めます。
「そこで今回、勇者殿にも協力してもらい、魔王軍に先手を打つことにした。今回の相手は勇者殿と聖女殿の力が有効打となるアンデッド、悪魔、スピリット系統の魔物が中心だ。奴らが攻め込んでくる前に四天王か、あるいは魔物の群れを統率している上位種の魔物を討伐する。奴ら魔王軍は上位種の魔物による恐怖統治により軍を動かしているのが常だ。故に、頭さえ潰せば壊走し、集団で組織的に基地を襲撃するということは不可能になる」
「なるほど、軍隊として成立しなければ、それは単なる魔物の群れ。防衛するならそう難しくはないというわけですね?」
「そういうことです、勇者殿」
「少しかまいませんか?」
私は挙手して、ガウェイン大佐に質問を投げかけます。
「壊走するとしても、相手は無数の魔物の群れです。それらが周辺に広がり、無作為に破壊活動を行うとすれば、それはそれで被害が大きくなるのでは?」
「それについては問題ない。既に周辺都市の騎士団に応援の打診はしてあり、作戦についても伝えてある。壊走する魔物の群れ程度であれば、問題なく処理してくれるだろう」
確かに、壊走する魔物の群れは遠くへ行くほどに密度が低くなります。この基地の周囲ならそれほど変化はありませんが、近隣の都市や集落に到達する頃には大きな脅威とはならないでしょう。
しかし、それはつまり。
「騎士団は、応援には来ないということですか?」
「そうだ。魔物の群れが基地を襲撃するタイミングには、どちらにしろ間に合わないだろうからな。それならば、作戦で生じる周辺の被害への対処に動いてもらう方が合理的だ」
理屈で言えば、確かにそう言えるとは思います。ですが、どうにも引っかかる部分の多い作戦です。
とはいえ、話は途中なのですから、ひとまず続きを聞きましょう。
「で、その肝心の作戦とは具体的にどのようなものになるのでしょうか」
「ああ、そこで乙木殿が開発した高周波ブレードが役に立つのだよ」
ガウェイン大佐は、自信満々に語り始めます。
「基本としては、勇者殿と聖女殿は温存しつつ敵本陣に送り込むことを目標としていく。突破部隊が既存の展開している魔王軍を強襲し、空いた穴に後続の兵力を送り込んで維持、拡大していく。この強襲をそのまま敵本陣まで直通させ、到達した時点で勇者殿と聖女殿に出てもらう。お二人に本陣を叩いてもらいつつ、我々は兵力で空けた穴を退路として維持しつつ防衛に徹し、突破部隊は下げる。お二人が十分に敵本陣を蹂躙した後、軍と共に後退。基地に帰還する」
話を聞く限り、かなり強引な強襲作戦のように思います。
「防衛といいますが、魔王軍に左右を挟まれた状態でそれが可能なのですか?」
「当基地の戦力の七割から八割ほどを送り込めば可能だと試算されている。しかも、これは乙木殿の耐刃ローブが無かったころのデータを元に出したものだ。勝算は高いと考えているよ」
確かに、一般兵が耐刃ローブを着ていればそこらの魔物相手に負傷する可能性は極めて低いでしょう。守るだけ、かつ長時間でなければ不可能では無いはずです。
「ですが、時間が経てば耐刃ローブなど役に立たないような強力な魔物が集まってくるはずです」
「その頃には突破部隊が後退しているはずだ。彼らを運用し、突出した敵戦力のみ撃退していく」
なるほど、理屈としては無駄の無い作戦と言えるでしょう。
しかし、それは全てが予定通り、何一つイレギュラーなど発生せず順当に事が進んだ場合の話です。
戦場で、そのようなことがありえるのでしょうか?
そして何より。そもそも最も重要で守るべきものはこの基地です。なのに、戦力の七割から八割を基地の外に、それも長く突出させ撤退に時間が掛かる形で出撃させ、勇者と聖女という貴重な戦力まで敵本陣のど真ん中に送り込んでしまうのは、どうも矛盾しているような気がしてなりません。
私なら、勇者という突出した戦力がある時点で防衛はほぼ確実に可能になったと考えます。
基地が陥落するとすれば、物量で長期間の攻めによるものか、四天王というイレギュラーな戦力によるものの二択です。
物量の問題は周辺の都市からの応援で解決可能なはずです。敵がどれだけ多くても、一度に基地を攻めることの出来る数は面の広さに準じますから。応援が来るまで耐えきることは、そもそも基地というものの存在意義からして可能なはずです。
そして四天王に関しては、勇者と聖女という突出した戦力が二つも用意されているのですから問題になりません。エルダーレイスのような魔物には聖女の持つ神聖魔法が極めて有効ですし、勇者は魔物全般に大して特攻効果のあるスキルを持っているはずです。
なので、二人が基地に到着した時点でここの防衛は成功したも同然のはずなのです。
故に、無理に攻め入る必要すらないはずですが。しかしこのガウェイン大佐という人は、何が何でも敵本陣の壊滅をさせたいご様子。
確かに大きな脅威を叩いてしまいたいという気持ちは理解できます。しかし、それは無意味な強襲作戦になるのではないでしょうか。
私がそのようなことを考えていると、金浜君が笑顔を浮かべつつ口を開きます。
「安心してください、乙木さん。何かあれば、俺と沙織がすぐ戻りますから。四天王なら既に一人倒したこともありますし、ステータスだってこんな感じです」
そう言って、金浜君は自分のステータスボードを表示してこちらに見せてくれます。
【名前】金濱蛍一
【レベル】85
【筋力】SSS
【魔力】SSS
【体力】SSS
【速力】SSS
【属性】光 炎 治癒 闘気
【スキル】勇者
「ほら。それに、沙織もなかなか強いんです」
「私も、けっこうやるんですよ?」
そう言って、三森さんも自分のステータスボードを表示します。
【名前】三森沙織
【レベル】76
【筋力】SS
【魔力】SSS
【体力】SS
【速力】SS
【属性】光 水 治癒 支援 結界
【スキル】聖女
「この通り、四天王程度なら問題にならないことは分かってますんで。もし基地になにかあったとしても、俺ら二人だけなら軍が戻るよりずっと速く戻れるはずです」
「そう、ですか」
勇者と聖女。この二人がすぐに戻ってくることが可能だというのなら、一応は安心なのでしょうか。
いえ、敵側の作戦が結局のところ分かっていないのですから、何とも言えませんね。





