17 戦況について
こちら、本日二本目の投稿になります。
思わぬ出会いに面食らいながらも、私は二人に質問します。
「お二人は、どうしてこちらに?」
「実は、この近くまで魔王軍の四天王の一人が攻め込んできているとかで。俺と沙織が派遣されてきたんです」
「なるほど、そうだったのですか」
確か、勇者称号を持つ四人はこうして各地の戦場にしばしば派遣されているというふうに聞き及んでいました。今回も、そういった事例の一つなのでしょう。
「勇者殿。乙木殿とお知り合いだったのですか?」
「はい。乙木さんには支援をして頂いているんですよ」
「ほう、そうだったのですか」
金浜君と話をする壮年の男性、恐らくガウェイン大佐と呼ばれた人物がこちらに向き直ります。
「ようこそいらっしゃった、乙木殿。私がこの基地の総指揮官であるガウェイン・ボードウィン大佐だ」
そう言って、ガウェイン大佐は笑顔でこちらに握手を求めてきます。
「こちらこそ、視察を認めて頂いてありがとうございます。私が乙木雄一。で、こちらの女性が美樹本有咲。私の補佐をしてもらっています」
そう言ってから握手に答えます。がっしりと握手を交わした後、ガウェイン大佐が本題に入ります。
「ちょうど勇者殿とも作戦に関わる話をするところだったのだよ。できれば、乙木殿もこのまま出席していただけないかな?」
「私もですか?」
「ああ。乙木殿が開発した高周波ブレードを運用する突破部隊も関わってくるのでね。開発者からの意見も訊きたい。それに、こちらからの意見も実戦レベルの話をお伝えできるので一石二鳥だ」
確かに、手間は減るでしょう。が、作戦を私のような外部のような者に話してしまっても大丈夫なのでしょうか。
「おや。その顔は、自分が作戦の詳細を知ってしまってもいいのか、と疑問に思っているのかな?」
「ええ、まあ。そんなところです」
「あのマルクリーヌ殿の推薦で来ていただいた方を疑う理由はありますまい。そもそも、我々は乙木殿の開発した魔道具に感謝しておるのです。お陰で助かった命も少なくない。間者を疑うはずもないだろう?」
「しかし、情報が漏れるルートが増えるのは」
「ははは。漏れたところで、そう問題のあるような複雑な作戦ではないよ。単純な、ごく常識的な動きの再確認。認識の共有をするだけに過ぎない」
どうにも納得いきませんが、ひとまずガウェイン大佐が良いというのなら良いということにしましょう。
ひとまず全員で席につき、まずはガウェイン大佐からの説明を待ちます。
「さて。まず今回勇者殿をお呼びした最大の理由についての話をしよう。当基地はつい最近までは魔王軍との小競り合いも少なく、比較的平穏な状況が続いていた。だが、およそ半月ほど前から状況が変わったのだ。散発的に国境を攻めていた魔王軍の一部が、徐々にこの基地周辺の地域へと集合しつつある。恐らくは、突破部隊の運用開始により戦況が変わった影響であると思われる。が、重要なのはそこではない」
言って、大佐は大きなテーブルにまんべんなく広げられた地図のある地点を指差します。
「この地点に、魔王軍が集結しつつある。その種族はアンデッドや悪魔系統の魔物、スピリット系の魔物が中心となっている。このことからある可能性を危惧し、偵察部隊を出した所、そこに四天王の一人であるエルダーレイスのアヴァロンが来ていることが分かった。恐らく、今回の魔物の集結を指示しているのも奴だろう」
エルダーレイス、とはスピリット系の魔物の上位種と言われるレイスの、さらに上位種のことです。通常のレイスでさえ、都市一つを壊滅させる可能性があるほどの危険な魔物なのに、その上位種ともなれば脅威は計り知れません。
さらにそんな魔物が、無数の魔物を引き連れているのです。その危険度から言って、早急な対応が必要なことは間違いないでしょう。
「なぜこの時期にこの基地を、という点については、いくつか可能性が上げられる。まず当基地は直近の戦闘経験が他の前線と比べて浅い。戦力が低いわけではないが、戦闘経験という意味では他の基地に劣るだろう。これを見越して、奴らはあえてここへの攻めを薄くしていた可能性がある」
「つまり、長期間に渡って続いてきた散発的な戦闘自体が、この基地を落とすための布石であったということですね?」
「そういうことです、勇者殿」
ガウェイン大佐は頷き、話を続けます。
「もしも当基地が陥落した場合、我が国最大の穀倉地帯ウェインズヴェールまで一気に攻め上がることも可能になる。もしもウェインズヴェールが戦火の被害を受けた場合、その損害は計り知れない」
輜重というものは極めて重要な要素です。そして補給される食料の多くを生産しているウェインズヴェールが被害を受ければ、必然的に軍の食糧事情が逼迫します。全体的な戦力ダウンは免れないでしょう。
「また、当基地から我が国の主要都市へ向かうには幾つかの山脈を迂回しなければならないのだが、奴ら魔王軍にはドラゴンやワイバーン部隊、ゴブリンやオークなど山林に生息する魔物の部隊も少なくない。それを考慮すると、本来ならば地形に守られているはずの各都市に向けて、最短で戦力を差し向けられる拠点として機能しうる」
「なるほど。魔王軍にとっては、どこに攻め入るにしても都合がいい拠点になるわけですね」
「そういうことだ。無論、それを警戒しているが故に当基地には他の前線基地と比べても倍以上の兵士が常駐しているし、近隣の都市からも緊急時は騎士団が救援に来る手筈にはなっている。だが、さすがに四天王に加えて各地から集った無数の魔物の群れに一度に襲われて耐えきれるかどうかは分からん」
金浜君と大佐が話す内容から、どうやらこの基地は相当に緊張状態にあるようです。
さて、これでおおよその状況については把握できました。肝心の作戦については、どうするつもりなのでしょうか。





