16 前線での偶然
前回と前々回の投稿をお休みしてしまい、申し訳ありません。
お詫びというわけではありませんが、本日は二本投稿しようと思います。
ウェインズヴェールでの視察が終わった後は、特に何事もなく領都を出発することとなりました。
侯爵からの接触もなく、ひとまずは問題なく切り抜けられたようです。
ただ、侯爵の話を私が突っぱねて以降、有咲さんがさらに積極的になってしまって困っています。
腕を組むぐらいならまだしも、行く先々の宿泊施設では同じ部屋に泊まろうなどと言い出すほどです。
しっかりと説得した上で別の部屋に泊まっても、有咲さんは諦めることなく勝手に私の部屋に入ってきます。その都度しっかりと追い出しているのですが、それでも有咲さんは諦めず、同じようなことを何度も繰り返しました。
そうこうしつつも、視察の旅は順調に進みました。ウェインズヴェールのような目新しい発見こそ無いものの、それぞれの土地でどのような特産品が消費され、どのような文化があるのかという見地が増えました。
この経験と知識は、今後私が事業を拡大していく上で、きっと役に立つことでしょう。
やがて旅も終盤に近づき、とうとう予定していた軍の視察、魔王軍との最前線へと到着しました。
ここでの視察を終えれば、あとは王都へと引き返すだけとなります。
「なんか面白いことが見つかるといいな」
「そうですね」
有咲さんと共に、視察の成果を期待しながら軍の基地へと向かいます。
基地への入場は、マルクリーヌさんから頂いていた書状のおかげですんなり行きました。むしろ、王都の騎士団長からの要望というのもあってか、軍人とは思えないほど丁寧な態度で、しっかりと出迎えてくれました。
基地の設備や備品の保守運営を担当する部署、輜重部の軍曹さんが私と有咲さんを出迎えてくれた後、基地の総責任者である大佐の元へと案内されます。
「乙木殿の開発された高周波ブレードのお陰で、大きなステータス格差のある魔物相手でも撃破が可能になりましたので、結果的に防衛時の消耗が減っているんですよ。損耗が減っているお陰で兵站に割く予算にも余裕が出来ました。兵士の食事事情も改善して、近頃の戦果も相まって士気がかなり向上していますね」
「ふむふむ、なるほど」
案内の道中、輜重部の軍曹さんから高周波ブレードの評判を聞いていきます。
「使い勝手などについては、不満などは出ていませんか?」
「そうですね。武器が脆いこともあって、やはり刃の付け替えの手間で不満が出ています。前線では混戦になることも少なくないので、刃が折れた時は引かざるをえなくなります。なので高周波ブレードを装備した部隊は小隊単位で各地に配備し、一般装備の兵士で対応できない魔物のみ優先的に撃破するという運用の域を出ないのが現状です。思っていたよりも攻撃力が上がった感じはしないな、というのが現場の人間の感想ですかね」
やはり、ブレード部分の脆さがネックとなっているようですね。陣形を組んでカバーするという運用法を提示はしましたが、残念ながらそこは上手く行っていないようです。
今後、高周波ブレードの改良をするとすればその辺りになってくるでしょう。
単純にブレードの頑丈さを上げるという可能性も考えられますし、刃の付け替え機構を工夫して改良するという手段も考えられます。
実際にどうやって問題を解決するかは、今後の課題でしょう。
そうして軍曹さんと話をしながら歩くこと数分。大佐さんが待機しているという天幕に到着しました。
「ガウェイン大佐殿! 乙木雄一殿をお連れしました!」
「入りたまえ」
天幕の中から声が聞こえ、私と有咲さんは軍曹さんと共に天幕の中へと入ります。
すると、なんと中には思いもよらぬ先客が待っていました。
「あれ、乙木さん?」
声を上げたのは、金浜蛍一君。召喚された勇者の一人であり、勇者称号を持つ少年です。
そして隣にはもう一人。
「偶然ですね。お久しぶりです、乙木さん」
聖女の勇者称号を持つ、三森沙織さんです。





