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13 ルーズヴェルト侯爵




 金髪イケメン改め、ルーズヴェルト侯爵の誘いにより、私と有咲さんは侯爵の屋敷に招待されることとなりました。

 ちなみにトーフ蔵の騒動の件は、私が少々暴れたことに関してはお咎めなし。そして、今後同じようなことが起こらないよう、トーフ蔵周辺の警備に騎士団から人員を割いてくれるよう取り計らってくれることとなりました。

 これでひとまず、トーフ蔵のお婆さんが地上げ屋の乱暴な行為に悩まされることはなくなるはずです。


 さて、一方で私と有咲さんの方ですが。何故侯爵の屋敷に招待を受けたかというと、恐らくは何らかの商談の為でしょう。

 特に、今回ルーズヴェルト侯爵はトーフ蔵の保護に興味を持っているようでした。そして私たちがトーフ蔵に興味をもって聞き込みをしている様はしっかりと見られていたわけです。

 既に、私たちがトーフ蔵に関係する何らかの商機を見出していることは感づかれているはずです。


 そうして侯爵とは別の馬車で屋敷に招待され、案内された部屋で待つこと三十分ほど。服装を貴族らしい綺羅びやかなものに着替えた侯爵が姿を現しました。


「お待たせしたね、乙木殿。改めて、私がルーズヴェルト・フォン・ウェインズヴェールだ。トーフ蔵の視察はお忍びだったのでね、騙すような形になってしまってすまない」

「いえいえ、お気になさらず。こうして侯爵様のお屋敷にお招き頂いて、光栄の極みです」


 ルーズヴェルト侯爵が手を差し出して来たので、握手を交わします。


「さて、小難しい挨拶は抜きにしよう。早速本題に入るのだが、乙木殿はトーフ蔵からどのような商機を見出されたのかな?」


 やはり、お見通しであったようです。侯爵が率直に本題から入ってくれたので、こちらとしてもすぐに核心から話すことが出来ます。


「実はですね、輸送業を営もうと考えておりまして」


 私は、これまでに考えてきた輸送業についての話と、それがトーフの輸出に当たってどれだけ有効な手段であるかを話します。

 冒険者ギルドと商会で取られる手数料を省きつつ、輸送専門に業務を絞ることで事業の効率化を図ること。そして、このやり方であれば少なくとも王都に向けてトーフを輸出し、現実的な値段で売ることが可能になることを説明しました。


 すると、ルーズヴェルト侯爵は感心したように頷きます。


「ふむ。なるほど、やはり乙木殿は噂通りの方のようだ」


 どのような噂か少々気になりますが、今はそこを訊くべき時ではないでしょう。

 ひとまず、私の計画に対しての侯爵の反応を待ちます。


「王都でトーフが売れる可能性は低くはない。だが、高くもないと思う。しかし、販路が広がるのはそれだけでこのウェインズヴェールにとって有益だ。出来るならば、私にもその計画、ぜひ協力させていただきたい」

「それはありがたいですね。もしもウェインズヴェールで何かあった時は、是非頼らせて頂きます」


 どうやらなかなかの評価を貰えたようです。領主様のお墨付きともなれば、今後もしもトーフを王都で販売する際、箔も付きます。トラブルの回避に使える手札にもなりますし、一石二鳥と言えるでしょう。


「ところで、乙木殿はどこか有力な貴族からの支援は受けておられるのかな?」

「いえ、特には」

「ほう、それならば、私が支援者として名乗りを上げても構わないということだね?」


 ルーズヴェルト侯爵が、さらに踏み入った話を始めます。

 この場合、支援者という言い方はそのままの解釈では駄目でしょう。単に侯爵家から資金などの援助を受けるというだけではなく、逆に侯爵家の顔を建てるため融通を効かせる必要も出てくるはずです。

 言い換えるなら、これは自分の派閥、傘下に入らないかという打診になるわけです。


「その場合は、こちらはどのような利益が得られるのでしょう?」


 返事については置いておき、まずは支援を受けた場合のこちらのメリットについて聞いておきます。ここを逃して漠然とした約束を交わしてしまうわけには行きません。


「まずは当然、資金面の援助を約束しよう。他にも私が治める領地の範囲内であれば、商売の内容に関わらず優遇する。要するに、商会の意向を伺う必要無く君の事業を進めてよいということだ」

「なるほど、それは魅力的な提案ですが。もちろん、こちらが頂くばかりでは済まないのでしょう?」

「まあ、それは当然だな」


 侯爵は頷くと、自分の要求について話し始めます。


「私としては、今後君の開発する特別な魔道具を優先的に回してもらいたい」

「魔道具、ですか」

「ああ。君が作る魔道具は、これまでに存在していた魔道具とは一線を画する性能を誇る。それを成立させているのは恐らく君のスキルにある。違うかな?」


 なんと、侯爵は私の作る魔道具の秘密についても察しがついていたようです。

 確かに魔道具の性能を詳しく調べれば、通常の手段では付与不可能なスキルが付与されているわけですから。しかもそれを実現しているのは私だけ。

 宮廷魔術師など様々なプロフェッショナルを差し置いて、私のような冒険者上がりの男が作れる理由があるとすれば、それは特別なスキルを生まれ持った為だと考えるのが自然です。


 まあ、実際は生まれ持ったというよりは廃棄スキルを押し付けられたわけですが。細かい違いでしかないので、本筋は合っています。

 つまり、侯爵がこうして私のスキルに秘密があると予想しているということは、事前に私のことについて十分に下調べをしていたという事になります。


 となると、今日のトーフ蔵での出会いは偶然などではなく、最初から計算されていたことなのかもしれません。

 私と有咲さんがウェインズヴェールへ向かって王都を出たことは、動向を伺っていればすぐに分かることです。

 そして私との接触を図るために、あのトーフ蔵に正体を隠して来店した。


「否定しないということは、肯定として受け取らせてもらおう」


 侯爵は、自身の予想をほぼ確信した様子で言います。


「つまり、私としては君の商才そのものよりも、その特別なスキルから製造される魔道具に価値を見出しているのだよ。恐らくその魔道具さえあれば、今後我が侯爵家が他のどの家よりも優位に立つことが可能だと思う程度にはね」

「それは、随分と高く評価いただけたようで恐縮です」

「いやいや、決して高すぎる評価ではないさ。君の存在、そして噂については、特に上級貴族の話題を席巻しているぐらいだからね」


 私の魔道具が軍で採用され、前線で使用されていることを考えると、これはリップサービスというわけでもなさそうです。

 そうなると、私を誰が傘下に加えるかで上級貴族間での競争が起こっているとも考えられます。


 なかなか、判断の難しい状況です。迂闊にルーズヴェルト侯爵の傘下に入ってしまえば、想定しないトラブルを抱え込む可能性も大いにあるわけですから。

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