10 商人組合の輸送事情
まず私たちがやってきたのは、ウェインズヴェールの商人組合の役所です。通常は、組合への加入や商業活動の各種許可証の発行の為に来る場所です。
今回は、この街の商人がどのような流れで輸送業務を冒険者に委託しているかについて質問するために来ました。
建物に入ると、総合受付らしい窓口が端の方にあったので、そちらに向かいます。
「すみません、少しいいでしょうか」
「はい。ご用件は?」
「実は、自分は王都の方で商業を営んでいるのですが、この度ウェインズヴェール産の農作物を仕入れたいと考えておりまして。その為に冒険者さんに護衛依頼を出して王都まで輸送を、と考えているのですが。ウェインズヴェールでは普通、どのような形で輸送業務を行っているのか知りたくてですね。その辺りの説明をお聞かせいただきたく思ってこちらに伺ったのですが」
「畏まりました。詳しい者をお呼びしますので、少々お待ち下さい」
そう言って、受付さんは一度後ろの方へと引っ込みます。そのまましばらく待っていると、壮年の男性が姿を現しました。
「輸送業務についての詳細を伺いたいとのことですが、お時間はよろしいでしょうか?」
「はい、問題ありません」
「では、別室の方でご説明しますので」
男性の案内に従い、私と有咲さんは別室へと向かいます。
部屋に入ると、そのまま席について男性が説明を始めます。
「まず、輸送業務全体の流れですが、ウェインズヴェールでは一律組合の方で管理しております。他の都市に輸出を希望する場合、あるいは他都市からの輸入を希望する場合、どちらでもまずは組合の方で簡単な手続きをして頂ければ、後は相場等を加味して商隊を組み、冒険者ギルドの方へと護衛の依頼を提出します」
「全て組合の方で決めているのですか?」
「ええ。そうしないと、あまりにも輸送に関連する護衛依頼が冒険者ギルドの方で乱立してしまい、特定の商会のみが独占するような形に落ち着いてしまいますので。機会を均等に割り振る為に、商隊の編成も護衛依頼の提出も全て組合の方で行っております」
となると、依頼報酬についても組合が決めている、ということになるのでしょう。
「ちなみに、冒険者さんの方への依頼報酬はどのような感じですか? 金額についてや、支払いまでの流れについて」
「はい。金額につきましては、冒険者ギルドの方とも協議をした結果、最終的な冒険者様への支払金額を決定しております。冒険者様への支払金額が決定すれば、そこから逆算して、商隊に加わる商会の皆様から、輸送品の内容に応じて集金し、これを報酬として使用させていただいています」
そこまで話を聞いて、急に有咲さんが口を開きます?
「中抜きは? 組合と冒険者ギルドでどれぐらい抜いてんの?」
その有咲さんの言葉を受けて、説明をしていた男性の表情が僅かに強張ります。
「ええと、ですね。中抜きと言うと非常に悪いことをしているように聞こえるのですが。実際は組合の方で商隊の割り振り、輸送品の内容確認等を行っておりまして、そちらの事務手数料として、いくらか頂く形になっております」
「へぇ、なるほどね。取るんだ、事務手数料」
なるほど、有咲さんの意図がわかりました。別にこれは責めているわけではなく、事実の確認に過ぎないのでしょう。
そして、事務手数料を取っていることが言葉で確認できました。実際に中抜きのような結果になっているのは間違いないでしょう。
さらに言えば、冒険者ギルドの方も同様に手数料を取っているはずです。わざわざギルドが報酬の金額についての協議に一枚噛む辺り、間違いないと見ていいでしょう。
元々、冒険者ギルドは依頼の斡旋料として幾らか報酬から差し引かれたものを冒険者に支払っているのですが。そこからさらに事務手数料まで取っているとすれば、二重で手数料を徴収しているような形にもなりますね。
これはなかなか、無駄の多い形態ですね。
「質問等は以上で宜しかったでしょうか?」
「はい、知りたいことはおおよそ分かりました。ありがとうございます」
質問したいことはこれ以上ありません。なので、最後に席を立ち、礼をしてから部屋を出ます。
そのまま有咲さんと並んで組合の建物を離れてから、口を開きます。
「やはり、輸送業務周辺がポイントとなりそうですね」
「だな。おっさんが言ってたアレ、たしか、最強の輸送業者とか何とかってやつ。マジでチャンスかもしんないな」
「ええ。それがはっきりしただけでも、かなりの収穫ですね」
魔道具店や工場では孤児院産のローブと、冒険者ギルドから依頼を通して集めた資源、そして個別に王都内部で手に入るものだけを仕入れていました。
なので、こうした輸送関連の穴については知る機会がありませんでした。
旅に出て、ウェインズヴェールを訪れたことで、偶然知ったトーフという食品を切っ掛けに一つの知見が得られたわけです。
「さて。それではもう一つ、確かめておきたい場所がありますので、そちらに向かいましょう」
「ん。やっぱ見ときたい感じ?」
「ええ」
どうやら、有咲さんは想像がついていたようですね。
「行きましょう、トーフの製造元へ」





