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08 領都ウェインズヴェール




 オークの群れとの遭遇以後、旅に異変らしい異変はありませんでした。初日こそ若干の遅れは出たものの、最終的には予定通り二日でウェインズヴェールへと到着しました。

 旅の共となった老夫婦、冒険者の男性、そして御者の男性とはここでお別れです。


 しばらくは、このウェインズヴェールの街を見て回ります。


「では、有咲さん。さっそく繁華街を見て回りましょうか」

「おう、いこうぜ、おっさん!」


 有咲さんは堂々と私と腕を組んで来ます。あまり拒否するというのも可哀想な気がしてしまい、つい断れずに受け入れてしまいます。

 まあ、結局は私が有咲さんに靡かなければ良いのです。気にせず、仕事に集中していきましょう。


 まずは、ここウェインズヴェールの特産品などをチェックしていきます。


 繁華街に出ると、やはりといいますか、かなり賑わっていました。穀倉地帯というだけあって、食材も豊富だからなのか、屋台や料理店も多く見受けられます。

 酪農なども盛んなのか、乳製品の並ぶ店も多くあります。チーズやバターのような加工品が多く、乳そのものが売られている店は限られています。


「あ、おっさん。アレみてみろよ」

「はいはい、どれでしょう?」


 有咲さんの指差す方向を見てみると、確かに驚くべき商品が並んでいます。

 藁のようなもので包装された、豆類を発酵させた食品、つまり納豆に似た商品が売られていたのです。

 私は有咲さんと連れ立って、さっそくその店に近寄っていきます。


「らっしゃい! ご夫婦かい? うちのトーフは美容にも良いって評判だよ、奥さんにどうだい?」

「トーフ、ですか。初めて見る商品ですね」

「そりゃあそうさ。よそに運ぼうとしたら、匂いに釣られて魔物が寄ってくるからな。基本、作った街で消費するしかねぇ代物さ」


 なんと。旅の途中で起こったオーク襲撃事件の真犯人が見つかりました。

 どうやら異世界の納豆は、名前は豆腐で、しかも匂いで魔物を寄せ付けてしまう危険食品だったようです。


「ちなみに、これってどんな匂いがするんですか?」

「魔物が好む匂いだが、人間には若干臭みのあるナッツって感じだな。品種改良が進む前はそりゃあもうひどい匂いだったって話だが、最近のはだいぶマシだぜ」


 異世界納豆はあまり臭くない様子。これなら、臭いが苦手な人でも食べられるかもしれません。


「有咲さん。食べてみませんか?」

「まー、ちょっと気になるかな」

「と、いうわけで。店主さん、一つお願いします」

「あいよ!」


 こうして、ウェインズヴェール最初の買い物は異世界の納豆、トーフに決まりました。


 トーフを買った後は、有咲さんと一緒に店を見て回りつつ、休憩できる場所を探します。噴水広場が見つかり、ベンチが沢山並んでいて休憩に適していたので、そこに腰を下ろします。


「さて、ではこのトーフとやらを実食しましょうか」

「えっ、おっさん、屋外で臭いもん食べるつもりなのか?」


 有咲さんが、マナー的な部分を気にしているようですね。

 しかし、私の場合は問題ありません。


「私は『加齢臭』のスキルがありますので、これを駆使すると異臭は纏めて消臭可能なので、恐らくはトーフの臭いも周囲に広がる前に消すことが出来ますよ」

「そ、そうか。いや、加齢臭ってスキルがあるのもアレだけど、なんでそのスキルで消臭できんのか意味不明なんだけど」

「まあ、出来るものは出来ますから。有効活用していきましょう」


 そう言って、私は早速トーフの藁を開封します。すると、内側からは見慣れた納豆、よりも大粒のネバネバした豆が姿を現しました。確かに、若干納豆のような臭いもしますが、ナッツ類によくある香ばしさの方が強く感じられます。


「なるほど、これは思いのほか食べやすそうですね」

「じゃあ、ほら。おっさん、あーん」


 私が豆に手を出す前に、有咲さんが指でつまんで差し出してきます。


「あの、有咲さん?」

「ほらおっさん。早く食えよ?」

「いえ、自分で食べられますので」

「ほら早く!」


 ずい、と差し出してくる有咲さん。逃げ場がありません。

 仕方ないので、有咲さんの指から直接トーフを頂きます。有咲さんの指を少しだけ咥え込むような形になってしまいましたが、仕方ありません。


「どう? おいしい?」

「そうですね。これは、かなりイケますね」


 旨味もあり、少し塩気のようなものもあります。香りも納豆と違い臭みがあるものではないので、誰でも食べやすいのではないでしょうか。

 ご飯に合わせてもいいですし、何なら単品でもけっこうイケます。お酒のおつまみにもなるでしょうし、食卓を彩る付け合せの一品として、漬物のような形でも使えるかもしれません。


「これだけの食品が、王都でさえ無名だったというのは意外ですね。正直、もっと有名であってもおかしくない代物です」

「ふーん、原因がありそーだな」

「ええ。有咲さんは、何か気づきました?」

「もし、昨日のオークのアレの原因がコイツだったとしたら、多分原因は二つかな」


 有咲さんが、自分の考えを語り始めます。

 近頃は魔道具店での経験や、カルキュレイターというチートスキルの成長もあり、前提となる情報さえあれば有咲さんの方がより正しい見解を出せることが多くなってきました。

 なので、こういった機会があれば、しばしば有咲さんの意見を求めるようにしています。


 今回も、有咲さんは何か気付いたようです。

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