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06 最初の道中




 乗合馬車に乗り込み、出発時刻になったので王都を発ちます。一緒に乗ったのは上位の冒険者らしい男性と、老夫婦の三名。

 それに私と有咲さん、御者の壮年の男性で合わせて計六名の旅路となります。

 次の目的地は王都からさほど離れていない都市であるため、二日ほどの旅程を想定してあります。


 向かう先は、ルーンガルド王国最大の穀倉地帯。ウェインズヴェール侯爵領の領都ウェインズヴェールです。

 王都だけでなく、ルーンガルド王国の各地に向けて様々な作物を出荷しているそうです。

 防衛上の視点でも重要な都市でもあるため、冒険者や兵士も多くが集まります。そして、彼らを対象にした商業も盛んとなっているわけです。

 そうした理由から、ルーンガルド王国では王都と並ぶ大都市と呼ばれています。


 そんな大都市ですから、当然私たちが視察をすることで得られるものも多いはずだ、と考えたわけです。


「お二人は、どうしてウェインズヴェールに?」


 ぼんやりと馬車の外の景色を眺めていると、老夫婦のお婆さんがそんな話を振ってきました。


「実は、私達は王都で魔道具店を経営しているのですが。そちらで何か新しいことを始めてみようとおもっておりまして。そのためのアイディアを貰うためにいくつかの都市を回る予定なのです」

「あらまあ。それは立派なことですねぇ」


 お婆さんはニコニコと笑いながら頷きます。


「ご夫婦でお勉強に出るなんて、仕事熱心なのね。素敵なことだわ」

「恐縮です」

「ほう、夫婦で魔道具店か」


 冒険者の男性が会話に入ってきます。


「まさか、あんたら『洞窟ドワーフの魔道具店』の?」

「ええ、そうですね」


 どうやら、この冒険者の男性は私たちの店のことを知っていたようです。


「あの店の魔道具のお陰で、俺の知り合いも助かってる。あんな高性能なローブを格安で売ってくれてるお陰で、ギリギリで命が助かったやつが何人もいるんだ。ありがとうな」

「いえいえ、こちらこそ、お買い上げいただけた上で、お役に立てたのでしたら何よりです」


 思わぬ場面での感謝の言葉を受けたものの、素直に受け取っておきます。


 この冒険者の男性の話が皮切りとなって、馬車の中では雑談がつらつらと続くような状態が続きました。

 そうして二時間ほど経過し、時刻が昼前に近づいた頃。前方から、勢い良く駆け抜ける馬車が走ってきます。


 すれ違いざまに御者の表情を伺いましたが、何やら必死な形相で手綱を握っており、ただならぬ雰囲気が漂っていました。

 これは、何か不穏なものを感じてしまいますね。


「有咲さん」

「分かってる」


 何か良くないことが起こるかもしれない。そう考えて、身構えておきます。有咲さんにも声を掛けましたが、既に気を引き締めていたらしく、真剣な表情を浮かべています。


「今の馬車、普通の様子じゃ無かったな。これは一騒動あるかもしれない」


 冒険者の男性もそう言って、自分の武器らしい片手剣と盾を装備し始めます。

 そんな私達の様子を見て、老夫婦の二人はおろおろと不安げに慌て始めます。お婆さんの肩をお爺さんが抱き寄せて、安心させるように撫でています。

 が、お爺さんもその表情からして不安は拭えないようです。


 やがて数分もしないうちに、異変の正体が判明します。


「オークだ! オークが暴れてやがる!」


 御者がそう叫び、馬車の中に状況を伝えてくれました。

 私と有咲さん、そして冒険者の男性は窓から身を乗り出して進行方向を見ます。

 すると、どうやら小規模な隊商を複数のオークの群れが襲っているらしく、前方では何人もの護衛らしい人間とオークが交戦していました。


「なんでこんなとこにオークが出るのか知らんが、助けに入らせてもらうぞ!」


 冒険者の男性は言うと、馬車から飛び降りて加勢に向かいます。腕に自信があるのか、オークの群れを相手にしてもまったくためらう様子がありません。

 対して、馬車の方は一時停止。そして安全のため、距離をとるために引き返そうとします。


「すみません、少し待ってもらえますか」


 私は、そんな判断をした御者の方に待ったをかけます。


「なんだい、何かあるのか?」

「距離を取る必要はありません。オークは問題なく片付けることが出来ますから」

「いや、そうは言ってもな」


 反論しようとした御者さんを制して、私は懐から取り出した防護魔石を渡します。


「これは防護魔石という魔道具で、万が一の時に攻撃から身を守ることが出来ます。魔力を流せば起動しますので、もし危なくなったら使ってください」

「あ、あぁ」


 困惑する御者さんを置いておき、次に老夫婦の二人にも防護魔石を渡します。


「どうぞ、お二人もお使いください」

「いいのかい?」

「ええ、大丈夫です。私も、彼女もオーク相手であれば安全に戦えますので」


 私は言ってから、有咲さんに目配せします。有咲さんも頷いて応えます。私のステータスはもちろんのこと、有咲さんもレベルが十分に上がっているのでオーク程度を相手に遅れをとることはありません。


「では有咲さん、こちらはお願いできますか」

「ああ、分かった」


 こうして馬車の安全を有咲さんに託した後、冒険者の男性を追ってオーク討伐に向かいます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王四天王を倒している「実質的に勇者レベルな変態中年」のエントリーだ!! 残念!オーク達の冒険はここで終わってしまった!
[一言] 次回楽しみです!
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