05 乗合馬車
旅に出る旨の挨拶を終わらせた後は、数日ほどかけて準備を済ませました。
そして一通りの荷物も纏まった今日。私と有咲さんはこれから、乗合馬車を利用するため、駐車場へと向かいます。
そんな私と有咲さんを、魔道具店の面々が見送ってくれます。
「乙木様。無事で戻ってきてくださいね」
「ええ、気をつけます」
「有咲さんも。魔道具店のことは気にせず、ゆっくり二人で楽しんできてくださいな」
「ん、ありがとな、マリアさん」
マリアさんは、私と有咲さんの両名に挨拶をした後、軽く握手を交わして店の方に戻ります。
最近は従業員も育ってきているとはいえ、有咲さんが抜ける分の負担は大きいはずです。帰ってきたら、すぐに労ってあげなければいけませんね。
そして次に挨拶に来たのはシャーリーさんです。
「乙木さん!」
「はい」
「次は私とマリアさんも、必ず連れて行ってくださいね!」
「そう、ですね。約束します」
「必ずですからね!」
どうやら、有咲さんだけと旅行に行くのが不服なようです。
とはいえ、ネガティブな感情を抱いているわけではない様子なので、帰ってきてからフォローすれば問題ないでしょう。
事実上として、世間からはシャーリーさんとマリアさんも私の妻のようなものだと見られているわけですから。その辺りの責任はしっかりとるべきでしょう。
と、シャーリーさんと約束をしてすぐ。二つの衝撃が同時に私の身体に襲いかかります。
「おじさま、早く帰ってきてね」
「旅行のお話、いっぱい聞かせて欲しいな」
「はい。お土産も買ってきますから、楽しみにしていてください」
ティアナさんとティオ君が、寂しがるような表情を浮かべながら言います。私は、この二人には特別なお土産を買ってきてあげよう、と心の中で決め、それを約束として口に出します。
最後に二人の頭を撫でると、二人は嬉しそうにしながら離れていきます。
「では、行ってきます」
出立の挨拶も終え、私は有咲さんと共に駐車場へと向かいます。
駐車場には、乗合馬車の他にも個人や商人が所有する馬車が停まっています。その中でも、乗合馬車の場合は呼子や御者が呼び込みをしているので、その声の方へと向かえば自然と見つかります。
「おっ、そこのご夫婦さん!」
ちょうど、近づいた乗合馬車の呼子らしい青年が私と有咲さんに向かってそんな声をかけてきます。
「乗合馬車ならうちにしときな。格安だが、乗り心地は悪くないぜ!」
「なるほど。どうですか、有咲さん」
私が有咲さんの方を向くと、顔を赤くして視線を逸らされてしまいます。
「どうしたのですか?」
「い、いや。夫婦って言われちゃった、って思ってさ」
つまり、照れているというわけでしょう。
「細かいことは気にしないでいきましょう」
「いや、細かくはねーだろ!」
私の言葉に、有咲さんはツッコミを入れてきます。どうやら、これで本調子が戻ってきたようですね。
「ああ、もう。なんか舞い上がって変になってたけど、やめた。普通にするのが一番だわ、やっぱ」
「それが一番です」
私と有咲さんはそんな会話を交わしつつ、呼子の青年の方へと向き直ります。
「料金は気にしないので、乗り心地と速さのある方が良いのですが。そういった乗合馬車はご紹介いただけませんか?」
「おっ、それならあっちにウチの馬車の上等な方のやつがあるぜ」
「そうですか、ご紹介感謝します」
こうして乗合馬車の目星もつき、指された方へと向かいます。
「なあおっさん」
「はい、なんでしょう」
「なんでおっさんは照れなかったんだよ」
その道すがら、有咲さんに問いただされてしまいます。どうやら、夫婦と勘違いされた件についての話のようです。
「今回は二人旅ですし、今後もこういった勘違いは多くなるでしょう。いちいち関係性を説明していてもキリがありませんから」
「うっ。まあ、そりゃあそうだけど」
それに、もう一つ。こうして私が全く有咲さんを意識していないような態度をとり続ければ、有咲さんが私のことを諦めてくれる可能性は高まります。
なので、今後もこうして勘違いされるようなことがあっても、表面上の平静は保ち続けるつもりです。
本日二本目です。





