04 旅支度
長期間、王都を離れることになるので、その旨を各所へと伝えなければなりません。特に、私が事業として仕事を任せている所は忘れずに。
私が居ない間の対応についても、しっかりと話し合っておかなければなりません。
工場の方は、私がいなくても上手く回っているので問題ありません。そして、魔道具店は有咲さんが抜けてしまう分の仕事の割り振りがあります。
これに関しては、有咲さんがカルキュレイターの力であっさりと振り分け終了。店の従業員の皆さんに挨拶をしている間に、全ての指示が終了していました。
その後は孤児院にも顔を出して話だけは伝えておきます。私が居ない間も今まで通りに仕事を回しておけばいいという旨を、ジョアン君やローサさんにも伝えておきます。
何か問題があれば、イザベラさんの方の判断で子供たちの安全を優先して動いてもよいので、非常時は任せるということも伝えます。
そして最後に、マルクリーヌさんの下を訪ねます。
今回は高周波ブレードの視察も兼ねるつもりなので、その辺りの許可も含めた諸々の話をマルクリーヌさんにしておかなければなりません。
許可が無くとも前線での戦闘の様子の観察ならいくらでも出来ますが、可能なら軍の内側から様子を観察しておきたいと考えてのことです。
「というわけで、見学の許可をいただきたいのですが」
「相変わらず、乙木殿は突然話を持ってくるのだな」
苦笑いを浮かべながら、マルクリーヌさんは言います。
「ともかく、話は分かった。こちらとしても、一度見ておいてもらいたいとは思っていたのだ」
「そうですか、それは好都合です。ところで、高周波ブレードの運用は上手く行っていますか?」
「ああ。さすがに前線全てに配備というわけにはコストの面や防衛力の面もあって不可能だったが、突破力のある部隊を一つ作るだけで、防戦一方だった戦況に攻めの一手を打つ余裕が生まれた。ジリ貧だった戦場が、いくつも状況が好転しているよ」
「それは良かったです」
高周波ブレードは、その性質的にも軍の標準装備とするには脆さが気になります。なので、突撃部隊の装備など攻撃力を重視する場面での運用が主となっているのが現状です。
そうした運用法を用いるという話は、事前にマルクリーヌさんから聞いてありましたが、どうやら上手く行っているようですね。
「それに、高周波ブレードだけではない。耐刃ローブや防護魔石も防衛時の生存確率を上げてくれている。お陰で継戦能力も高くなり、結果として後出しで勇者を始めとする突出した戦力を送り込んでも間に合う機会が極めて多くなった」
耐刃ローブと防護魔石に関しては、前線で戦う兵士の標準の支給品として少しずつ普及しています。
今はまだ生産が追いついていないので全ての兵士が装備しているような状況ではありませんが、いずれは全ての兵士の命がこの二つの魔道具で守られるようになるはずです。
「本当に、乙木殿には感謝しているんだ。だからこそ、こちらからもお願いしたい。是非、乙木殿の力でさらに軍の助けとなる装備を生み出してくれ。それがあれば、また何百、何千人の命が救われるのだ」
「ええ、わかりました。そういうことなら、私も全力を尽くさせていただきます」
どうやら、マルクリーヌさんの側からも、視察は望んでいたことのようですね。
こちらとしてもさらなる軍需備品の開発は狙っていきたいので、渡りに船というやつです。
その後、マルクリーヌさんと少しだけ協議をした結果、どの前線へと視察に向かうのかも決まり、この日の話は終わります。
「では、よろしくおねがいします」
「ああ。話は通しておくので、任せてくれ」
最後にマルクリーヌさんと握手を交わし、私は退室。このまま王城を離れ、帰路につきます。
王城から魔道具店の方へと戻る道の途中で、有咲さんが迎えにくるところと鉢合います。
「おっさん、どうだった?」
「はい、許可はもらいました。これで、軍を正式に視察できます」
「へへ、そりゃあ良かった!」
有咲さんは、嬉そうに笑いながら私の腕に掴まります。
まるで恋人同士でやるような腕組みに、私はつい戸惑い、距離をとろうとしてしまいます。が、それを咎めるように有咲さんは力を込めます。
「なんだよ、おっさん。姪っ子は叔父さんと仲良くしちゃダメなのかよ?」
「そういうわけではありませんが」
「じゃあいいだろ?」
確かに、あまり露骨に否定しすぎて、有咲さんを傷つけてしまうのも本望ではありません。
「そうですね、では、仕方ありません」
「だろ? ほら、帰ろうぜ!」
こうして、私と有咲さんはまるで恋人同士のような格好で、帰路をゆっくりと歩みました。
週二回、と宣言していたのですが、先週の投稿を一回忘れておりました。
本日、もう一度投稿致します。





