03 視察旅行
突然の話題転換に、有咲さんは困惑している様子。なので、要点を順に説明していきます。
「工場も本格的に稼働を開始したので、そろそろ新しい事業を始めようと考えています。ですが、今は良いアイディアが浮かびませんし、出来ることも多くはありません。そこで、王都を離れて他の街を見て回ります。見聞を広めることで、新しく出来ることが増えるかもしれません」
「な、なるほど?」
少なくとも、王都に居るままで出来ることはほぼやり尽くしたと考えています。
「それに、王都でやっているのと同じ事業を、他の街にも広げていくことが出来るはずです。その下見という意味でも、街を巡って旅をする意味はあります」
「まあ、確かに。それはなんとなく分かるけどさ」
新しい街で魔道具店や付与魔法の工場を作るなら、その街の様々な情報を仕入れる必要があります。
人づてに聞いて情報を集めることも出来ますが、やはり自分の目で見て回るのが一番でしょう。
「最後にもう一つ。旅のついでに、軍に卸している高周波ブレードを導入している部隊の視察も済ませておきたいのです。実際にどのように装備が運用されているのか。何が足りていて、何が足りないのか。それを自分の目で見てくることで、また新しい魔道具のアイディアが浮かぶかもしれません」
「そりゃそうだろーけどさ」
有咲さんは私の話に同意しながらも、納得していない様子で首を傾げます。
「で、なんでアタシも一緒に行くことになるんだよ。いや、おっさんと一緒なのは嬉しいんだけどさ」
尤もな疑問が、有咲さんから出てきました。その点についでも、ちゃんと理由があります。
「一つは、レベル上げの為です。マルチダンジョンで可能な限りのレベリングは既に済ませてあるかと思いますが、今のレベルでは大きなトラブルに巻き込まれた時に困ります。ですので、単純な実力の向上の為に有咲さんには一緒に来て欲しいのです」
「それは、別に王都に居ても出来るだろ?」
「王都で魔道具店の経営の片手間に出来るレベリングでは、勝てない敵が出てくる可能性も十分にあります」
私が懸念しているのは、魔王軍についてです。既に私が四天王の一人を倒してしまっているので、今後報復がある可能性は十分にあります。
そして、私が四天王を倒せたのはスキルの相性が良かったからに他なりません。今のレベル、今の実力では、正面から魔王軍の四天王級の相手と戦うには不安が残ります。
「それに、有咲さんのスキル『カルキュレイター』こそ、視察をする上で最も役に立つスキルだと考えています。視察の結果を最大限良いものにするには、有咲さんは必要不可欠なのです」
「でも、魔道具店をアタシが離れてまでするようなことか? おっさん一人でも、十分に意味はあると思うけど」
「最後に、もう一つ理由があります」
私は、しっかりと有咲さんの方を向いて告げます。
「お詫び、です。有咲さんを傷つけた分、有咲さんの願いを叶えてあげるべきだと考えました。恋人になってあげることは出来ません。ですから、代わりに二人きりの旅行という形で、有咲さんに報いたいと思いました。どうでしょうか?」
「行く! それなら絶対行くっ!」
有咲さんは食い気味に、身を乗り出して視察旅行に同行することを決めてくれました。
ちなみに、お詫びとは言いましたが、二人きりで旅行して、それでも脈なしと有咲さんに分からせることで、諦めてもらう意味もあります。
ですので、お詫びというのはかなり卑怯な言い方ですが、一応そういう意味も無きにしもあらずなので、問題はありません。
「では有咲さん。早速ですが、視察旅行に向かうための調整をしましょう。魔道具店や工場の運営を当分の間、私たちが居なくても出来るようにしなければなりませんし。それに、旅のルートも決めなければなりません」
「そういうのは任せてくれよな。アタシのスキルで、最高の旅行プランを立ててやるよ!」
有咲さんは元気に、満面の笑みを浮かべてそう言います。
やはり、有咲さんが元気でいてくれるのが一番ですね。





