02 不機嫌な姪っ子
私は魔道具店の方に顔を出します。
「おはようございます。有咲さんは居ますか?」
「あら、乙木様。有咲さんなら、今はバックにいるはずですわ」
店内にちょうど居合わせた、マリアさんが応えてくれます。
「最近、ずいぶん不機嫌そうにしていますけれど、何かありました?」
「ええ、まあ。すこし」
「ちゃんと仲直りしてくださいな」
「はい、そのつもりです」
今日ここに顔を出したのも、一つはそれが目的にあったからです。
マリアさんに教えられた通り、私はバックへと向かいます。
「有咲さん」
バックでは、ちょうど有咲さんが今日のレジ締めの作業をしているところでした。
商品の在庫の数と仕入れの数から売れたはずの品物の数を算出し、そこから出した売上と実際に手元にある金額の差異を確認する作業です。
私が呼びかけると、有咲さんは複雑そうな表情を浮かべてそっぽを向きます。
「すみませんでした。この間は、言い過ぎました」
「何のことだよ」
不機嫌そうにしながらも、有咲さんはどうにか私と対話する姿勢を見せてくれます。ここからが、誠意の見せ所でしょう。
「有咲さんの気持ちを考えず、一方的に私の考えを押し付けてしまいました。有咲さんが私に対して好意を抱いてくれていることを、否定するような真似をしてしまいました。本当に、無神経だったと思います」
「じゃあ、アタシと付き合ってくれるのか?」
有咲さんが一転して、嬉しそうな声で訊いてきます。ですが、ここは同意できません。私は首を横に振ります。
「私と有咲さんが、叔父と姪の関係にあることは変わりません」
「そんなの、関係ねーだろ。ここ日本じゃないんだし」
「はい、そういう考え方についても、理解はできます。ですが、同意までは出来ません」
そこまで言ってから、私は一度言葉を区切り、提案をします。
「ですので、間を取りましょう」
私が言うと、有咲さんは首を傾げます。
「間って、どういう意味だよ」
「有咲さんは、私と恋人になりたい。私は、有咲さんと恋人にはなれない。ですので、その中間をとります。有咲さんは、私の恋人のように振る舞ってもよい。ですが、恋人同士ではない。なので、例えばどちらかが別の誰かを好きになっても、何の問題もありません。恋人ではないのですから、別れるということもないわけです。逆に例えば、私の気が変われば、そのまま恋人同士になればいい。既に恋人同士のように振る舞っていたのですから、これもおかしい部分は何もない」
私の提案に、有咲さんは頷く。
「よーするに、アタシがおっさんのことを誘惑して、落とせばいいんだろ?」
「まあ、有咲さんの側からすればそうなります。そして、私は有咲さんの誘惑に負けないよう耐えるというわけです」
この提案により、有咲さんの欲求を部分的に満たすことが出来ます。こうすれば、有咲さんの願望を部分的ではありますが満たすことが出来ます。
そして、私が有咲さんを恋人にすることはありえません。後は有咲さんが諦めをつけるか、誰かもっと良い人、新しい恋を見つけるまで待てばいい。
といった考えから提案したのですが、どうやら有咲さんはこの提案に乗り気のようです。
「分かった。その話、乗った! ぜってーおっさんのこと、落としてみせるからな!」
「そう簡単にはいきませんが、乗ってもらえて何よりです」
これで、ひとまずわだかまりは解けました。
なので今日ここに来たもう一つの理由を告げます。
「さて。有咲さん、仲直りも出来たのでお仕事の話です」
「は?」
「一緒に、旅行に行きましょう」
「え、いや、なんで?」





