28 ジョアン君の告白
デスインセクトとの戦闘は、子供達優位で進んでいきます。
耐刃ローブがあるので、腕の鎌はただの打撃武器にしかならず、そもそも全員が完璧に見きっています。
また、高周波ブレードはデスインセクトの硬い身体を容易く切り裂いてゆきます。この程度であれば、希少金属の合金製高周波ブレードは問題なく餌食にします。
とはいえ、デスインセクトの動きは機敏で、子供達もなかなか致命傷を与えることが出来ません。甲殻の表面を裂くばかりで、内臓までは傷つけることができません。ほぼダメージは通ってないと言えます。
状況的には子供達が優位にありますが、勝ちはまだ遠い状況。ここから子供達がどう動くかが重要です。
「俺が前に出る!」
そう言って飛び出したのはジョアン君です。それに合わせて、子供達はジョアンを守るような行動に出ます。
デスインセクトの攻撃をジョアン君以外の五人が防ぎ、ジョアン君は素早くデスインセクトの懐に潜り込みます。そして下腹部から頭部に向けて高周波ブレードで切り上げます。
「喰らえぇッ!」
ジョアン君の斬撃は、見事にデスインセクトの肉体を左右で真っ二つに分離させます。これで、一体目のデスインセクトは無力化されました。
ですが戦闘はまだ終わりではありません。
二体目、三体目のデスインセクトの攻撃は続きます。これを五人だけで防ぐのは至難の業です。さらに、一体が死んだことでその背後に控えていた最後の一体、四匹目のデスインセクトが飛び出してきます。
無理に一体を始末しようとしたことで、状況が悪化しました。魔物が三匹までなら有効な手段でしたが、四匹目がいると分かっている状況では悪手です。
子供達に怪我をさせるわけにはいかないので、私が助太刀に入ります。
まずは正面、四匹目のデスインセクトを始末します。貧乏ゆすりキックで、デスインセクトの鎌ごと胴体を削り落とします。
「あっ、おっちゃんっ!」
何やらジョアン君が顔を赤くしていますが、今はそれどころではありません。武器も失い、命も奪われたデスインセクトはこれで無力です。続いて左右の状況に対応します。
鉄血で金属の壁を素早く生み出し、子供達を庇います。デスインセクトの鎌では金属を切り裂くことは出来ず、弾かれて体勢が崩れます。
そこへ、私は貧乏ゆすりで振動させた足を振り抜き、金属片を飛ばします。高速振動する金属片は、飛翔する高周波ブレードとなってデスインセクトを真っ二つに引き裂きます。一度の蹴りで二つの金属片を放ったので、残った二匹は同時に死亡。
こうして、三匹のデスインセクトは私の手で、ではなく足で撃退されたというわけです。
「ふう、どうにかなりましたね」
「お、おっちゃんっ。あ、ありがと! あのままおっちゃんに助けてもらえなかったら、たぶんヤバかったよ!」
私に飛びついてくるジョアン君。どうやら、ピンチを助けられたのが相当嬉しかった様子。
「いえいえ。おそらく耐刃ローブがあれば、多少の攻撃を受けても怪我なく四匹とも撃退できたはずですよ。私が手を出したのは、あくまで安全のため。皆さんに傷を負わせない為です」
言って、私はジョアン君の頭をなでます。
「頑張りましたね、ジョアン君。一匹目を倒した時の行動は、なかなかの勇気がいる行動でした。状況を見れば最善ではない選択ですが、それでもジョアン君の思い切りの良さは悪くありませんでしたよ」
「う、うんっ! おっちゃんがそうやって褒めてくれるなら、頑張って良かったかな。へへっ!」
嬉しそうに微笑むジョアン君。この年頃の子供の笑顔は、やはり良いものですね。心が暖かくなります。
「やっぱ、おっちゃんのこと、俺、大好きだ」
「そうですか、ありがとうございます」
ジョアン君は顔を赤らめながら、私の胸に頭をぐりぐりと擦り付けてきます。
こうして子供に好かれ、甘えられるのも嬉しいものです。
私はつい微笑みながら、ジョアン君の頭をなでます。すると、なぜかジョアン君は不満げな表情を浮かべます。
「もう、おっちゃん。全然分かってないだろ?」
「はい? 好きなんですよね、分かっております」
「だから、そういう軽い感じじゃねーの! 俺、本気でおっちゃんのこと好きなんだよ!」
ほう、本気とは。どういうことなのでしょうか。
「本気ですか。それは、どういう意味で?」
「そ、それは、だから。えっと。俺はおっちゃんのことがっ!」
顔を真赤にしながら、叫ぶようにジョアン君は言います。
「結婚したいぐらい、おっちゃんのことが好きなんだよっ!」
その発言に、私は頭の中が真っ白になってしまいました。