27 子供達とダンジョン攻略
イザベラさんと話をした日から、私は行動を開始しました。
冒険者ギルドに依頼を出し、素行に問題の無い教育者向けの冒険者を集めました。そして、子供達に戦闘訓練を施していきます。
場所はちょうど、孤児院の遊ぶための広場で行うことにしました。
そして冒険者のノウハウを学んだ子供達を引き連れ、マルチダンジョンでレベル上げに向かいます。低層であれば、大人の冒険者の監視と私の魔道具だけで安全にレベル上げが出来ます。
レベルの低い子供達を優先し、時には私も共にダンジョンへと潜ります。
また、教育を担当した冒険者には、毎回私の方へと報告に来てもらいます。イザベラさんや子供達の報告と合わせて進捗を管理し、かつ冒険者の教育能力についても評価します。今の所、問題のある教育者などは居ないようで安心しています。
そうして、私の『最強の配送業者』計画が始動してから一ヶ月が経過しました。
この頃になると、すでに工場の方も整地が終わり、施設の建設に入っています。魔道具の設計についてもおおよそ完了しており、もう少しで工場が稼働するはずです。
ここまで来ると、私にも少し時間の余裕が出来ます。おかげで子供達の教育により手をかけることが出来るようになりました。
今日は、配送の初期メンバー、ジョアン君を含む六人組のレベル上げをする予定です。
「よろしくな、おっちゃん!」
「はい、よろしくおねがいします」
ジョアン君が楽しげな声で挨拶をしてきました。私も出来る限りの笑顔で応えます。
そして、ダンジョンに突入しました。子供達の中では最高レベルの六人なので、他の子供達よりも深い階層でのレベル上げを実行します。
場所はマルチダンジョンの中の一つ、森林系のダンジョンです。多種多様な魔物と、見通しの悪い地形。自衛能力を高めるのに相応しい、過酷な環境下にあるダンジョンです。
このダンジョンでしっかりと生き残ることが出来れば、冒険者で言えばCランク相当の実力があると言えます。そして、それだけの力があれば十分な自衛能力があると言えるでしょう。
「では、まずは皆さんの実力を確かめます。私のことは考えずに、行けるだけ深い階層まで進んでください。その後撤退まで安全にこなすことが出来れば、皆さんは合格です。一人前の配送業者と言えるでしょう」
「はい、分かりました!」
ジョアン君が元気よく返事します。
そうして、ダンジョン探索が開始します。先頭のジョアン君が進路を考え、魔物を警戒しつつ進んでいきます。より魔物が少ない、安全な経路を的確に選んで進んでいきます。
それだけではありません。ジョアン君以外もしっかりと周囲を警戒し、ジョアン君の行動方針に従いつつ細部のフォローに入っています。また、ジョアン君の行動に不安がある場面ではしっかりと意見を出し、全体の安全性を高める為に協力しています。
かなり洗練された動きに、思わず感心してしまいます。これだけの能力があれば、もう半端なゴロツキや魔物では相手にもならないでしょう。私の考えた理想の配送業者の姿そのものと言えます。
やがて魔物の強さが高くなってきたところで、ジョアン君は足を止めます。先ほど倒した狼型の魔物に少々苦戦したところです。
「これ以上は危険だから、ここで引き返そう」
ジョアン君の提案に、全員が頷いて賛同します。安全マージンを十分にとった判断であり、かつ安全すぎる段階での撤退でもありません。的確な判断と言えます。
そこでようやく、私が口を出します。
「素晴らしい判断です、皆さん。ここでの撤退の判断は的確です。我々は冒険者ではなく配送業者。荷物を確実安全に運ぶのが仕事です。リスクを取らず、危険をさけ、確実な行動を心がける。それが徹底できていますね。偉いですよ」
「えへへ、おっちゃんに褒められちゃったなっ!」
嬉しそうにジョアン君が笑い、他の子達も安堵して笑みを零します。これまでの緊張が程よく解けたところで、新しい提案をします。
「今日は折角ですから、もう少し深く潜りましょう。私もついていますので、より強い敵との戦闘を経験してみましょう」
「は、はいっ!」
子供達がしっかりと返事したところで、再びダンジョン攻略を開始します。今度はあえて魔物との戦闘を経験するため、あえてちょうどよい数の魔物が群れている場所を探して積極的に向かいます。
最初の魔物は昆虫型の魔物。セミとカマキリが融合したような魔物です。名前はデスインセクト。このダンジョンの、この階層ではほぼ最強の部類です。
「さて、まずはこれとの戦闘を経験してみましょう」
私が言うと、子供達は緊張した様子で武器を構えました。いよいよ、実践での戦闘訓練の開始です。





