26 おっさん、子供達を鍛える
私がイザベラさんに説明した計画。それは、子供達を鍛えて最強の配送業者に育て上げるというものです。
とまあ、簡単に言ってしまうと少々意味不明な内容になりますが。しかし、これはある意味必要なことであったと言えます。
何しろ、この世界は治安が悪いのです。配送業を営むなら、いちいち警備役として冒険者を雇うのは非効率です。どうせなら、配送業と一緒にうちの業者を守る警備会社的なものも作り上げた方が良いと言えます。
私が管理する配送業者と警備会社で組ませることができれば、確実かつお手軽に信頼できる戦力で配送中の労働者を守ることが出来ます。
そして、今の配送は子供達の担当です。それに合わせて将来的に警備会社を設立するなら、警備担当も子供のうちから教育するほうが都合もつけやすいのです。配送業者、そして警備会社。二つの業者が完成する時期が重なる方が計画も立てやすいわけです。
そこで、現在の状況を鑑みてひらめいたのです。どうせなら、配送業者そのものが戦力を担っていれば、わざわざ二つの会社を別々で設立する必要も無くて合理的ではないか、と。
大前提として、配送業をする上で自己防衛戦力は必須です。となれば、そもそも配送業者自身が強いほうが遥かに合理的でしょう。
実際、冒険者が貴重な物品を都市間でやり取りするような仕事も受けていることがあります。これは、貴重品を守り切るだけの戦闘能力があるからこそ任せられる仕事です。
同様のことを、さらに大規模に、合理的に行う。それが、私の考える『最強の配送業者』計画なのです。
そのテストケースとして、子供達に戦闘のためのノウハウを教えます。そして、計画的にダンジョンに潜り、可能な限り安全に配慮したレベル上げを行います。
つまり、以前ジョアン君たちに行ったことを、大規模に、より計画的に実行するのです。
そうして鍛え上げられた子供達が配送業者の初期メンバーとなり、さらに新しいメンバーの教育係を務めてくれれば最高です。
まあ、今からそこまで望むのはさすがに高望みのしすぎでしょう。
しかし子供達に配送を任せる以上は自衛力は必須です。護衛の冒険者を雇い続けるのが難しいという都合上、仕方のない選択なのです。
という説明をしたところ、イザベラさんも納得してくださいました。
「というわけで、しばらくは子供達を鍛え上げます。強くなれば武器に対する理解も深まり、好奇心も落ち着くでしょう。それに、ダンジョンで定期的にレベル上げをすれば、そちらへの興味も十分満たせるはずです」
「なるほど。ですが、その訓練やダンジョンでのレベル上げは乙木さんが全て監督するのですか?」
「いえ、ある程度は私が監督します。ですが、私だけでは手が足りませんからね。他の冒険者の方々に依頼を出して頼むつもりです」
こうした面倒で手のかかる依頼でも、冒険者の皆さんは受けてくれます。特に、教育に関わるような依頼は教養が求められるので、自然とギルドの方で人格や素行の部分で篩いにかけてくれます。
また、私も冒険者たちの素行についてはしっかり監視する予定です。
なので、子供達への教育は問題なく行えるはずです。
しばらくイザベラさんは考え込む様子で黙っていましたが、やがて口を開きます。
「そうですね、分かりました。乙木さんにおまかせします。そもそも、こうなってはもう私では解決できませんからね。おまかせする他ありません」
「すみません、イザベラさん。心配されているような事態には決してなりません。させませんので、安心してください」
私が言うと、イザベラさんは頷いてくれました。
「はい。信頼させていただきますよ、乙木さん」
この信頼には、何が何でも応えなければなりませんね。イザベラさんと、そして子供達の為に。





