25 最強の配送業者計画
私は一度工場の方での作業を切り上げ、孤児院の方へと向かいます。そしてイザベラさんから事情を伺います。
「というわけで、詳細について教えていただけると助かります」
「えっと、何がというわけで、なのかわかりませんけれど。うちの子達がダンジョンに潜っていたことについてですね?」
私が頷いて肯定すると、イザベラさんは詳しい話を訊かせてくれました。
なんでも、切っ掛けは私の渡した魔道具だそうです。
以前、ジョアン君たちをダンジョンに連れてゆき、レベル上げをしました。その時の危険度を鑑みて、私は配送を任せていた少年少女達には更に優秀な魔道具を装備として渡しておいたのです。
そもそも、実はマルクリーヌさんに説明した兵士の装備は、子供達に持たせた魔道具の量産型に過ぎなかったりします。
つまり、子供達には兵士以上の装備をもたせているわけです。
高周波ブレードは希少金属で折れず擦り減らないよう作ってありますし、耐刃ローブは頑丈で軽い魔物の革を使った高級品。防護魔石も複数持たせてありますし、緊急時の攻撃用魔石も作り上げました。
これだけの装備があれば、ゴロツキはもちろん魔物に襲われても撃退が可能でしょう。
そして、それだけの装備を手にしたとあれば、好奇心旺盛な年頃の子供達が考えることは単純です。その武器を使ってみたい、と考えたわけです。
普通なら考えるだけで終わるわけですが、ここでジョアン君たちをダンジョンに連れて行ったことが影響します。ダンジョンという場所を経験した者がいたせいで、未知への恐怖が薄れてしまったのです。
こうして好奇心に負けた子供達が、こっそりとダンジョンに入り込むという事態に至ったのです。
「幸い、子供達は無事帰ってきましたけれど。でも、大怪我をしてからでは遅いのです。どうにか対応して頂けませんか? もちろん、勝手に借りた仕事道具を使ってしまったことについては、申し訳なく思っていますが、私だけでは対処しきれないんです」
イザベラさんはうなだれ、謝罪混じりに相談を口にします。
「ひとまず、顔を上げてください。今回のことはむしろ私に責任があったといえます。子供達がそんな行動に出る可能性は十分に考えられました。なのに対策をしていなかった私こそ責められるべきですから。イザベラさんは何も悪くありません」
「そう、ですか。ありがとうございます」
私が言うと、イザベラさんは戸惑いながらも顔を上げてくれました。
「それよりも、子供達の対策を考えましょう。イザベラさんの方では、すでに忠告してあるのですよね?」
「はい。ですが、魔物を倒してレベルが上がることに味を占めた子がけっこういるみたいで。まだこっそりとダンジョンに通っている子がいるみたいなんです」
「なるほど、それは仕方ないですね」
レベルが上がる。それはこの世界において、重要な財産と言えます。レベルさえ上がれば肉体は強くなります。場合によっては、冒険者にもなれます。
孤児院の子供達が夢を見る上で、お金や権力よりもよほど身近な価値あるものなのです。
「となれば、無理に禁じるのは悪手ですね。押さえつけては、余計な反発を生み出しかねません」
むしろ、今ある子供達の好奇心、つまり意欲を有効利用する方が合理的と言えるでしょう。
「では、どうするんですか?」
「はい。むしろ、子供達にはダンジョンに潜ってもらいましょう」
「はい?」
私の言葉に、イザベラさんは首をかしげます。
「そうですね。名付けるならば、これは『最強の配送業者』計画とでもいうべきでしょうね」
そして私が言うと、イザベラさんは呆れたような溜息を吐きました。
「はぁ。で、それはどういうことなんですか?」





