21 高周波ブレード
「それが、その、武器なのか?」
マルクリーヌさんは疑いの声を漏らします。
まあ、それも当然でしょう。私が取り出したのは、ただの金属板にも見える魔道具なのですから。
「この金属板は、薄い鋼で作ってあります。先ほどの剣と同じスキルを付与してあり、刃もつけてあります」
言って、金属板をマルクリーヌさんに渡します。細長い平行四辺形の板で、三辺が研がれて刃になっています。刃のついていない側には、穴が複数空いています。
「ふむ。これに魔力を流せば、先ほどの剣と同等の切れ味を発揮するのだな?」
「ええ」
「このままでは使えないだろう?」
「はい、ですからこちらの柄に金属板を装着します」
私は収納袋から、さらに魔道具を取り出します。剣の柄のみ、という奇妙な魔道具で、鍔の付近には蓄光魔石が装着されています。
金属板をマルクリーヌさんから返してもらうと、柄の魔道具に装着します。鍔にある隙間に金属板を差し込み、鍔の近くにあるトリガーを引きます。すると、金属板の穴が鍔の内側で固定され、装着完了します。
「そしてこの柄の魔道具に付いている蓄光魔石から、魔力が供給されます。すると、金属板はスキルを発動して振動します。これなら、魔力が少ない兵士でも確実にこの武器を扱えます」
「なるほど。刃が壊れやすいなら、最初から壊れることを前提にすればいい。鋼の板に刃をつけるだけなら、剣を鍛えるより遥かに安価に製造出来る。一人の兵士に何枚も金属板を持たせることも可能だろう」
どうやら、マルクリーヌさんはこの魔道具の有用性を理解して頂けたようです。
「将来的には、この金属板、名前を『高周波ブレード』と言いますが、これを鞘の中に十枚程度収める形で携帯できるようにするつもりです。ブレードが折れたらトリガーを引いて刃を捨て、鞘に収めると新しい刃が自動で装着できる機構で再装着するよう設計します」
そうすれば、素早い刃の付け替えが可能となります。特別な技術も必要ありません。兵士でも簡単に扱えるわけです。
「ふむ。しかし問題はまだ幾つかあるぞ?」
マルクリーヌさんは言って、高周波ブレードの欠点について指摘します。
「まず、兵士の練度という問題がある。この剣は、正確に刃を立てなければ切れ味を発揮出来ないうちに折れてしまうだろう? そのような繊細な武器は、訓練を徹底されていない兵士には不向きだ」
その指摘は、確かに納得のものです。兵士がみな剣士というわけではなく、むしろ農民や商人であることも少なくありません。だからこそ、兵士は分厚く頑丈な剣を支給される場合が多いのです。
ですが、高周波ブレードについてはスキルを付与することで解決してあります。
「そこで、私はブレードに振動以外の機能を付けてあります」
言って、私はブレードの振動を止め、手を離して床に落とします。
すると、摩訶不思議。ブレードは勝手に向きを修正し、刃を床に向けて真っ直ぐ落ちていきます。
そして、サクリ、と床に刺さります。
「こ、これはどういうことだ?」
「はい。スキル『ランディング』を付与してあります」
ランディング。これは、兎型や鳥型、猫型の魔物が所持していることの多いスキルです。
簡単に言えば、体勢を整えて綺麗に着地するスキルです。本質は着地ではなく、姿勢制御の部分にあります。
衝突の負荷を可能な限り低減するよう姿勢を自動で制御する、というのが正確な効果です。これを薄く壊れやすい刃に付与した場合、どうなるか。
衝突の負荷、つまり斬撃の負荷が軽減されるよう、刃が勝手に角度を変えます。これにより、ちょうど刃が立つ形になるのです。
実は、私が冒険者として活動していた頃に使っていた各種刃物にも付与してあるスキルだったりします。
とまあ、そうした原理について説明すると、マルクリーヌさんは感心したように唸ります。
「うむぅ、これは画期的なスキルだな。騎士のように、剣を学んだ人間からすれば太刀筋を狂わせる結果になるだろう。しかし素人の兵士が使えば足りない技術力を補ってくれる。高周波ブレードに限らず、兵士が使う刃物には標準で付与して欲しいぐらいだ」
「どうやら、ご満足いただけたようですね」
ここまで絶賛されるとは思っていませんでした。想定以上の好感触です。
しかし。
「だが、それでもまだダメだ。兵士に支給するわけにはいかない」
マルクリーヌさんは、まだ認めてくれません。
「それは、何故でしょうか?」
「単純な話だ。刃が折れる、という大きな隙を戦場で晒すのはあまりに危険なのだよ、乙木殿」
なるほど。その理屈もまた、真っ当な指摘です。
戦場で兵士と兵士が対面している時。相手の剣が折れた瞬間、どんな素人でも隙が生まれたことを理解できます。
この分かりやすさは、練度の低い者同士の戦いだからこそ、影響は大きくなります。敵兵士は高周波ブレードが折れた瞬間、攻め込んでくるでしょう。その攻撃を裁きつつ、ブレードの付替えを行う。いくら簡単な機構とはいえ、兵士にこれを要求するのは酷でしょう。
「はい、私も理解しています」
だからこそ。私は、さらなる提案を持ってきたのですから。





