18 弟子二人と師匠一人
後書きを追記しました。
ニューハーフ魔法について話をしている内に、気づけば目的地が近づいていたようです。
「そろそろ、師匠の部屋に到着します」
松里家君に言われて、改めて周囲を確認します。
見覚えのある風景。間違いなく、訪れたことがあります。
松里家君の師匠。ニューハーフ魔法や女体化魔法の開発に協力してくれるような変わり者。魔法の開発まで出来るレベルとなると、恐らくは宮廷魔術師なのでしょう。
それを考慮し、現在位置まで加えて考えると、松里家君の師匠の正体に察しが付いてしまいます。
「着きました。ここです」
言って、松里家君が立ち止まった扉。
間違いなく、ここは宮廷魔術師シュリヴァ、つまりシュリ君の研究室です。
「師匠、僕です! 松里家です!」
松里家君が扉に向かって呼びかけます。すると、扉は勝手に開きます。
部屋の中には、やはり予想通りシュリ君が居ました。こちらを見ず、背を向けたまま何かの実験に集中している様子。
「どうしたのかな?」
「乙木さんを連れてきました」
「え、ホント?」
松里家君の言葉を聞いて、ようやくシュリ君はこちらを振り向きます。
「オトギン! いらっしゃい、よく来たね!」
「はい。松里家君に呼ばれたので。シュリ君は、松里家君も弟子にしたんですね」
「そだよ~。まあ、やる気はあったみたいだし。こっちとしても都合が良かったし?」
シュリ君の都合、というものまでは分かりませんが。どうやら単なる善意だけで松里家君を弟子にとったわけではないようです。
「で、今日は何の用件かな? 確か、オトギンは今日ちょうど叙爵したんだよね?」
「はい。それも関係しているとも言えますが。詳細は松里家君の方から」
言って、私は松里家君の方に視線を向け、合図を送ります。松里家君も頷き、説明の為に口を開きます。
そして、今日松里家君がシュリ君の所を訪れた理由が告げられます。勇者同士で派閥が生まれつつあること。現在不利な勢力である金浜組が、後ろ盾を求めていること。そのために、私との繋がりを求めたこと。私の工場で、言わば警備業務のような形で働くつもりであること。
最後に、その為にシュリ君にも協力して欲しいことを伝えます。
全体の流れを伝え終わると、シュリ君はあっさりと頷きます。
「おっけー、いいよ。勇者同士で派閥ができちゃったなら、仕方ないしね。ここでダメだって言ったりすれば、バランスが崩れて国としても困る。オトギンは肩書きとしては名誉男爵になるわけだし。一応、問題は無いかな」
どこか含みのある言い方をしながらも、シュリ君は協力することを約束してくれました。それを見て、松里家君は安心したように息をつきます。
「感謝します、師匠」
「いやいや~、別にまっつんの為じゃないからね?」
そう言い返しながら、シュリ君はなぜか私の方へと近寄ってきます。
「それよりも。ボクとしては、オトギンがどういうつもりなのかって方が気になるんだよねぇ」
「はあ。それはどういう意味でしょう?」
シュリ君の目が、僅かに鋭く細められます。見定めるような視線を、私は可能な限り動じずに受け止めます。
「スキル付与を施した魔道具工場? 莫大なエネルギーを生産し続ける、蓄光魔石の工場? そんなもの作って、何が目的なのかなぁって」
言いながら、シュリ君は私の身体に抱きつくような姿勢で近寄ってきます。手足を絡め、どこか卑猥な身振りで。
その仕草につい緊張してしまいますが、なお私は平静を装います。
「単に利益を必要としているだけですよ。以前もお話したように、平和には力が必要ですから」
「そうだね。で、その先は? 国の行く先を左右しかねないほどの力を求めて、オトギンはその後何をするつもりなのかな?」
シュリ君は、私の頬に手を当て、顔の向きを変え、強制的に向き合う形を作ります。
そして互いの目を見据えた状態で、言います。
「その答えによっては、国としては君を警戒しなきゃいけない。敵になるかもしれないなら、今は味方になれない。わかるよね?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ、教えてくれるね? どういうつもりなのかな?」
シュリ君は繰り返し、私の魂胆を聞き出そうとしてきます。しかし、話すわけにはいきません。シュリ君はあくまでも、協力者です。有咲さんのような、ある種の運命共同体ではないのですから。
迂闊なことは言えません。例えば、場合によってはこの国を捨て、他国や魔王の側につく可能性もあるとは言えないのです。
だからこそ私はより強く、確かな力を求めているわけなのですが。そうした部分を説明できない以上は、語れるものが何もありません。
「特に、何も」
だから私は惚けてみせます。
「高い利益を生む技術者、商人、冒険者。そういった存在は、国にとっても不利に働くものではないでしょう」
「ふーん?」
シュリ君は、不満足げな表情を浮かべます。
そして、私から距離を取り、離れていきます。
「まあ、合格かな。ボク相手にあっさり全部話しちゃうようじゃあダメだしね。まあ、いいんじゃないかな?」
つまり、シュリ君はこれ以上の追求をするつもりは無いのでしょう。ひとまず、この件については心配は無さそうです。
「いい機会だから、オトギンにはちゃんと教えておこうかな。確かにボクは今、この国の宮廷魔術師だよ。でも昔は他の国で働いてた。その前は別の国。そのまた前は、っていう風にいくつでも遡ることが出来るぐらいなんだよね」
改めて話し始めたシュリ君の、今度の口調はどこか軽い調子でした。
「ボクにとって大事なのは、どれだけボクにとって都合がいい、利益のある条件で働かせてくれるかってこと。今はこの国が一番いい条件で雇ってくれてるから、こうして宮廷魔術師らしいことをしているに過ぎないわけ。おっけー?」
「ええ、まあ。なるほど」
つまり、シュリ君は元々はこの国の人間ではない。決まった国に帰属しない、根無し草のような存在なのでしょう。
「逆を言えば、僕は一番いい条件を出してくれる勢力のところで働いてるわけだね。そこんとこ、オトギンにはよーく分かった上で、考えてほしいかなぁ?」
シュリ君は、そう言ってどこか試すような、それでいて無邪気な笑顔を浮かべます。
話の意味を忖度するならば、つまり遠回しな引き抜き願望でしょう。いずれ私が、シュリ君を良い条件で雇うことが出来るほど力をつけたなら。その時は、国から引き抜きをしてくれ、と解釈できます。
「分かりました。また、いずれお伺いします」
なので、私も迂遠な表現で応えます。いずれ、時が来たらシュリ君を引き抜く、という意味を込めた返事をします。
これを聞いて、シュリ君は満足げに頷きます。
「うんうん。待ってるよ、オトギン!」
その様子を見るに、私の選択はそう間違ったものでは無さそうですね。
いきなりこちらを試すようなことをされた時は少し焦りましたが、どうにか切り抜けることが出来たようです。
また、投稿時刻が少し遅れてしまいました。申し訳ありません。
※ここから追記です※
現在、隔日の投稿が遅れております。
楽しみにして下さっている読者の皆様、申し訳ありません。
現在、執筆の時間はあるのですが、続きの展開について悩んでおり、筆が止まっている状態です。
少しずつは書き進めているのですが、まだ本当に今書いている流れで行くかも完全には判断できていない状態です。
ですので、もう少し書き進めてみて、これでいいだろう、と納得できる段階になってから更新を再開したいと思います。
それまでは、少し投稿をお休みする形になってしまいます。
申し訳ありません。
それでも続きをお待ち頂けるのであれば、ご期待に添えるものを必ず仕上げて参りますので、是非お楽しみにお待ち下さい。





