16 勇者達との協調
私は求められた通り、現在の計画について話しました。
まずは工場を建設予定であること。そちらに本腰を入れて、大きな利益を上げるつもりであること。その為に、今日ちょうど名誉男爵を叙爵したこと。知られても問題のない情報です。
逆に、私が工場を建て、名誉貴族にもなって何をしようとしているのか。そこについては説明しません。
そういった内容を一つずつ話す毎に、皆さん驚いているようでした。
全てを話し終えると、すぐに松里家君が口を開きます。
「なるほど、おおよそ状況は理解できました。やはり、乙木さんと組んだのは正解でしょうね」
言いながら、悩むように頭を抑え、考えている様子の松里家君。何を言うつもりなのか、と少し待っていると、すぐに話が再開します。
「やはり、乙木さんと協力する体制が良いでしょう。が、商人あるいは工場主としての乙木さんに、こちらから支払えるものが無い。あまり不審に思われず、しっかりと協力体制を築くとなると、選択肢は少なくなります」
「少ねーっつうか、あんのかよ?」
東堂君が文句をつけますが、松里家君は迷わず頷きます。
「戦力の提供、という形が一番だろうな。僕らは幸いにして勇者であり、チートスキルを持ち、ステータスも優れている。その強さは、この世界で非常に貴重な域にある」
「そんなもの、気軽にどこかへ好き勝手提供させてくれるかしら?」
懸念を口にしたのは、元養護教諭の鈴原歩美さんです。
「ええ。普通ならば難しいでしょう。しかし、乙木さんの工場の場合は状況が異なります」
松里家君が自分の見解を述べていきます。
「まず、乙木さんの工場は王都の外――つまり野生の魔物から身を護る為の外壁が存在しない場所に建設される予定です。となると、そもそも施設を維持する為に相応の戦力が必要と考えられるでしょう」
正にその通り。工場の維持には、野生の魔物から施設を守る為の戦力が必要になります。
ちなみに、私は自身のスキル『加齢臭』がスキルとして成長した『広域加齢臭』を使ってどうにかするつもりでしたが。それを駆使して、隙を見ては王都を守る外壁のようなものを建築する予定でした。
「そして、工場では今後の戦争で有利に働くような武器、兵器を生産する予定でしたね。となれば、国としても工場には存続してもらった方が良い。そして工場の防衛戦力に騎士を回すよりは、予備戦力として控えている僕たちのような勇者を利用するのが無駄が無くて良い」
「なるほど、国の需要と状況、人材が噛み合うわけね」
鈴原さんは納得したように頷きます。
私も、松里家君の意見には概ね賛成です。多分、王宮側の人間にも松里家君のような考えに至る人は多いでしょう。
ただ、反対する勢力も当然居るでしょう。なので、実現するかどうかは松里家君や私のロビー活動次第、ということになります。
「どうでしょう、乙木さん。この案について」
「私も、大筋では賛成です。ただ、事前に反対意見を潰すか、賛成してくれる人を増やしておく必要がありますが」
「ええ。ですので、それについてはこの後ちょっと考えがあります。お付き合い頂けますか?」
「そういうことなら、もちろん」
私の答えに、松里家君は安心したように頷きます。
「よし、これで決まりだ。勇者の中でも、僕ら金浜組は乙木さんの工場で防衛戦力として雇ってもらう。これを外部のコネクションとして、王宮内での僕らの地位を高める為に利用させてもらう。誰か、質問や意見があれば今のうちに教えてくれ」
松里家君は一同に呼びかけました。が、誰も特に意見は無い様子。ひとまず、勇者金浜組の方針は決まったようです。
「では、今日はこれにて解散! 今後の動きが決まったら、また集まって詳細を詰めよう」
最後に、松里家君が締めて会合は終わります。勇者達はそれぞれ席を立ったり、そのまま会話を始めたりします。
そんな中、松里家君は僕の肩を叩き、話しかけてきます。
「乙木さん、今からお付き合い頂けますね?」
「はい。ちなみにどこへ?」
「僕の魔法の、いえ、色々な意味での師匠の居る場所です」
そう言って、松里家君はニヤリと笑いました。
投稿に遅刻してしまいました。申し訳ありません。





