14 勇者達との会食
食堂には、すでに金浜組のほぼ全員が集まっているようです。
「見た感じ、今日余裕があった人は勇樹以外全員居るかな。さあ、乙木さんも適当に座って下さい」
「ええ。今日はお招きいただき、ありがとうございます」
私は感謝を述べつつ、席に座ります。
ちなみに、勇者一同の食事は特別待遇。集まった人数分で用意されるので、私がここで一人増えたとしても許容範囲内なわけです。
私が席に座った後には、三森さんと東堂君も座ります。そして金浜君だけが、席につかず立ったまま話を始めます。
「みんな、集まってくれてありがとう。今日は普通に情報交換をするだけのつもりだったけど、偶然にも良い協力者を得たので紹介するよ。では、乙木さん」
場を仕切るようなことを言っておきながら。金浜君は、私に自己紹介をするよう促してきます。まあ、別に問題はありませんし、このまま金浜君の要求に応えましょうか。
「皆さん、初めまして。乙木雄一という者です。皆さんと共に召喚された、しがないおっさんです。今は街の方で魔道具店を経営しております」
簡潔に今の自分について説明し、自己紹介を終えます。これで十分だったのか、金浜君は満足げに頷きます。
「乙木さんのような、外部の協力者は貴重だからね。みんな、仲良くしてほしい」
金浜君の締めの一言に、皆さんそれぞれ小さく口々に返事をします。
「じゃあ、次はこっち側の自己紹介と行こうか。僕と勇樹、陽太に沙織は面識があるからこれでいいとして。じゃあ、仁科さんから順番にお願いします」
金浜君は、隣に座る東堂君の、さらに隣に居る少女に視線を飛ばしながら言います。少女は頷き、立ち上がります。
「私は仁科雪。女神に貰ったスキルは『魔法無効化』。で、あと沙織の幼馴染。沙織に変なことするつもりなら、私が容赦しないから」
威嚇するような視線を飛ばしつつ、仁科さんはまた席に座ります。三森さんに対して何かするつもりはありませんが、注意はしておきましょう。仁科さんの機嫌を損ねるようなことがあると面倒そうですからね。
続いて、仁科さんの隣に座る男子が自己紹介の為に立ち上がります。
「俺は真山正蔵! チートスキルは『絶対鑑定』だ。よろしくな!」
気さくに調子よく名乗りを上げた真山君。しかし、喋り方や身振りに違和感があります。気さくな言動に不慣れなのか、無理をしているのか。そうした印象を受けます。
「コイツ、自分のスキルが凄いからって調子乗ってるから。おっさんも変に相手しない方がいいよ」
補足するように、仁科さんが言います。
「ちょっ! おま、そりゃねーだろ。実際俺の『絶対鑑定』、マジ神だから! 転生チートものの中でも定番のチートスキルだし!」
慌てて反論する真山君。なるほど、言動から推察するに、彼は自分のスキルの力を過信するあまり、気が大きくなって日頃の態度が豹変してしまったのでしょう。周囲の不評を買うのも頷ける話です。
「まあまあ、喧嘩しないで。自己紹介も終わってないんだから」
金浜君が仲裁に入って、真山君と仁科さんの喧嘩は終わります。続いて、隣に座っていた女性が席を立ちます。
「私は鈴原歩美。元々は、高校の養護教諭だった者です。召喚時に貰ったスキルは『完全回復』です」
簡潔な自己紹介と共に、鈴原さんは席に座りました。確かに、外見からして学生には見えない年齢です。養護教諭だったのであれば頷けます。
続いて立ち上がった隣の女性も、恐らく同年代でしょう。というか、見覚えがあります。少しふくよかな体型の、私好みの女性。前にも同じような感想を抱いた記憶があります。
「私は木下ともえ。この子達のクラス担任でした。スキルは『暗殺術』なんですけど、正直いまいち使い方が分からなくて。お役に立てていない状況なんです」
スキルの説明をした段階で、しょんぼりとした表情を浮かべる木下さん。そんな木下さんをフォローするように、東堂君が口を開きます。
「いやいや、ともちゃんはクラスのみんなの為に頑張ってんじゃん! 気にすんなって!」
「そうですよ、先生。先生が居なければ、今頃クラスメイト全員、バラバラになっていたはずですから。心の支えになってくれた先生の存在は大きいです」
「ううっ。ありがとね、陽太くん、蛍一くん」
東堂君に続き金浜君のフォローも入り、木下さんは気を取り直したようです。
そして、自己紹介は木下さんで全員です。
「一応、ここに居る人たちで僕らの勢力は半分ぐらいでしょうか」
金浜くんが、勢力についての説明をします。
「半分、ですか。残りは全て、内藤組に?」
「いえ。内藤組はもっと少ないですよ。他は中立、というか孤立しています。王宮の誰かと繋がりを持って、そっちと深く関わってたり。どちらとの関わりも拒否したり。状況を見てから動くつもりだったり。ほんと、色々です」
「なるほど」
「だからこそ、勇樹は急いで味方を作ろうとしたんでしょうね。正直、乙木さんに声をかけたのも勇樹の指示ですし。あいつに言われなければ、外部の人を頼って味方につける、なんてこと思いもしなかったでしょうから」
さらなる補足説明で、おおよそ状況が分かりました。松里家君が内藤君の不穏な動きに気付いた頃には、もうすでに勢力図が出来上がりつつあった。だからこそ、急いで味方を作り、勢力図を変え、自分たちのみを守るために有利な材料を欲した。
その為には外部の人間、私までも巻き込む必要があったのでしょう。金浜君が、面識の少なさにも関わらず妙に下手というか、丁寧な態度であることにも合点がいきました。
「で、その肝心の松里家君は今日は居ないのですか?」
「いえ。居るはずなんですが、王宮に帰ってくるなり自分の部屋に引きこもっちゃって。もうすぐ来るとは思うんですが」
と、私と金浜君が話をしている時でした。
食堂の扉が勢いよく開き、バァンッ、と大きな音が響きます。
「遅れて済まなかったな!」
そして、聞き覚えのある声。松里家君の声です。全員が食堂の扉の方を向き、私も同じく向きを変えます。
で、意味が分からず首を傾げます。
「遅かったな、勇樹」
「ふん。化粧直しをしていて時間が掛かったんだ。仕方ないだろう?」
なんと、そこには見知らぬ女性が立っていたのです。
どう聞いても男の、それも松里家君のものとしか思えない声を発する女性が。





