13 勇者対勇者
食堂に向かう道中で、金浜君は事態の概要を説明してくれました。
「異変に気付いたのは勇樹でした。クラスメイトの中から、義務訓練に出ない人が不自然に増え始めたんです」
義務訓練とは、召喚された勇者の皆さんに対して王宮が施す教育の一つ。戦闘訓練のことです。これに加え、座学や礼儀作法について叩き込まれながら、必要な時は勇者として国の各地に駆けつける。というのが、松里家君からも聞いていた勇者の一日の過ごし方です。
極論ですが、これは学校の仕組みと似通っている為、勇者の皆さんはすんなり受け入れることが出来たようです。日々の座学や礼儀作法が授業であり、義務訓練が体育。勇者としての派遣は季節ごとの学校行事に当てはまります。
そして、受け入れられたからこそ、多くの勇者は従っていました。
なのに、ある日状況が変わった。
「そこで勇樹は、原因が何かあると考えて、探りはじめました。それで、もう一つの異変に気付いたんです」
「もう一つ、ですか」
「ええ。王宮の人間の中に、不自然に非協力的な態度を取る者が複数居たんですよ」
「不自然な、と言いますと。それはどの程度の?」
「露骨に顔を顰めたり、話題を突然明後日の方向に反らしたり。そして、それだけ露骨に何かを隠していながら、誰もが妙に堂々としていました」
なるほど、確かにそれは不自然ですね。
普通なら隠し事はもう少し上手く隠します。そして、上手く隠せないのならそれに怯え、態度に出ます。
しかし、不自然な王宮の人間は、堂々と、かつ不器用に隠し事をしているのです。肝が座っているか、あるいは馬鹿であればそういうこともあるでしょう。
ただ、ケースとしては極めて少ないはず。なのに、同じような態度の人間が何人も見つかった。この全員が馬鹿、あるいは肝の座った人間である、というのは考えづらい。
「当然、勇樹も誰か第三者の関与を疑い、情報を集めました。その結果、犯人の目星はあっさり付きました」
「それはどちらさまで?」
「うちのクラスメイト、召喚勇者の一人。内藤隆です」
と、名前を言われても咄嗟には思い出せません。
「見た目はかなり派手ですから、覚えてませんか? 灰色の髪に、唇にピアスを付けた男です」
言われてみると、そんな男が居たような記憶はあります。
「内藤のスキルは『洗脳調教』といって、目の合った人間を自分の支配下に置き、どのような命令でも聞く奴隷のようなものに変えてしまうスキルなんです」
スキルの性能まで聞くと、状況が飲み込めてきました。
「なるほど、その洗脳調教のスキルで王宮の人間が支配され、変わってしまったのですね?」
「お察しのとおりです」
金浜君は頷き、さらに説明を続けます。
「勇樹が調べた結果、どうやら不自然に変化した王宮の人間、そして俺らのクラスメイトは、みんなここ最近になって急に内藤と親しげにしているらしいんです。元々、俺らのクラスでも爪弾き者だった不良の彼が、そんな交友関係をあっさり築けるわけがありません。間違いなくスキルを使ったんだろう、って勇樹は言っていました」
金浜君の語った推測は、確かに納得の出来るものです。嫌われ者が、ある日突然人々に好かれるというのはありえません。どれだけ功績を積み、心を入れ替えたとしても。それまでの日々の積み重ねが、壁となって立ちはだかります。
だというのに、内藤君という子は急に友達が増えた。そして洗脳調教というチートスキル持ち。状況証拠は真っ黒です。
「ただ、勇樹にもそれ以上のことは分からなかった。内藤が人を集めて、クラスメイトに義務訓練をサボらせて、何をするつもりなのか。危険性も、何一つ分かっていません」
まあ、こればかりは仕方ないでしょう。行動から推測できるものが何もありませんし、直接聞くわけにもいきません。明確に敵対する態度を取っていない以上、藪蛇になる可能性だってあります。
「なので、だからこそ勇樹は今現在洗脳を受けていないはずのクラスメイトを集めて、団結する必要があると考えたんです。最初は俺と陽太、それに沙織に話を打ち明けてくれました。そこからは、俺たち四人で人を集めて、対内藤グループを結成した感じですね」
「なるほど、経緯はおおよそ分かりました」
私は金浜君の話を聞き、納得したように頷いてみせます。そして、追加で質問を。
「聞いておきたいのですが、現在の勢力図は、内藤君グループと金浜君グループの他には無いのですね?」
「ええ。内藤の方を俺らは内藤組、って呼んでます」
「で、こっちが金浜組な!」
「おい、陽太。その呼び方はやめろって言ったろ」
東堂君が話に割って入ります。そんな東堂君を、金浜君は肘で小突いて牽制。東堂君は、素知らぬ顔をしてまた黙ります。
「で、他にもどちらの勢力にも加担していない人も何人か居ます。例えば、七竈さんなんかはどちらのグループでもないですね。声を掛けたんですが、普通に断られました」
金浜君がなんでもないことのように名前を口にしました。が、私は嫌な名前を聞いてしまい、少しドキリとしてしまいます。
恐らく私以外の誰かの下につくつもりは無い、とかそんな理由で断ったのでしょう。
とまあ、話をしていたら食堂に到着しました。
「さあ、着きました」
言って、金浜君がやはり先導するように食堂へと入ります。
私もその後を追います。勇者の皆さんを取り巻く事情を知り、そして勇者の皆さんと繋がりを持つ為に。





