11 ステータスチェック
マルクリーヌさんから説明を受けた後。私は、他の勇者達と同じく王の謁見の間に集められました。
なんでも、一度説明をしてから謁見の間で正式に勇者へ任命し、任務を与えるそうです。
召喚された部外者をさっそく自分の家来のように扱う。なんともまあ、選民的な思想です。下々の人間はどう扱っても良い、と耳に聞こえてきそうなぐらいです。
「さて、勇者諸君。状況については既に説明が済んでおるだろうが、改めて語ろう」
玉座に座っている、王冠を被った偉そうなご年配の方が口を開きます。多分国王なのでしょう。が、何だか気に食わないのでご年配の方とお呼びしましょう。
「かつて、我が国と魔国は共に手を取り合い、歩み寄っておった。協調し、種族の差なく力を合わせて優れた国を作ろうと約束を交わした仲であった。しかし! 奴らは十年前、突如として我らを裏切った! 魔物の森から魔物を引き連れ進軍し、国境付近の我が国の民を虐殺。そして今なお多くの土地が奴らに占領され、人間が差別され、苦しみ喘いでおるのだ! このような悪逆非道、断じて許すわけには行かぬ!」
ご年配の方が、熱の入った演説を繰り広げます。ただ、その内容は胡散臭いものです。話を聞く限り、あまりにもルーンガルド王国に都合が良すぎます。いくら悪逆非道の国だったとしても、そこまで酷い行いを前触れ無く突然実行するはずがありません。
恐らくは、何らかの外交トラブルが発展し、解決できない大きな歪みとなり、起こった戦争なのでしょう。
ですがそれを認めると、自国にも非があったことになります。だから、ルーンガルド王国は隠蔽しているのでしょう。少なくとも、勇者に対しては。
勇者は赤の他人です。悪逆非道の魔王軍でもなれけば、力を貸してくれる保証はありません。だから偏った話を聞かせ、印象操作をして、言うことを聞かせるつもりなのでしょう。
見ると、数人は居たはずの大人の姿がありません。現代日本の教育を受けた大人であれば、これが印象操作であることぐらい見抜けるでしょう。そして見抜いた結果、不利益になる発言をされると困るから隔離された。
あるいは今も何らかの方法で説得されている最中かもしれません。
そう考えると、私の説明役がマルクリーヌさんで本当に良かったです。
私が色々と考え込んでいる内に、ご年配の方の話が終わったようです。
「以上の理由から、我々は諸君、勇者の力を借りたい。無論、力を借りる以上それ相応の報酬は約束しよう。望めば望んだだけ、我々が用意可能な全ての報酬を与えよう」
金、権力、女。いくらでもお前らにやるぞ。だから協力しろ。そういうことですね。
欲望が強く自制心の弱い子供なら、ころっと靡いてしまうでしょう。
中には反抗する者もいるかもしれませんが、問題は数です。大多数が協力派に傾いてしまえば、たった一人が抵抗しても潰されるだけです。
むしろ他に仲間のいない異世界で、数少ないクラスメイトという絆に縋る者も少なくないでしょう。たとえ本心では危険と分かっていても、欲望に傾いたクラスメイトと同様、王国の口車に乗るしか無くなるはずです。
ただ、希望はまだあります。勇者称号系のスキルの持ち主。つまり四人の真の勇者です。この四人は他の勇者と比べて特別な存在です。だからこの四人が国王の要請を断れば、全員が戦争に参加させられる運命を回避する目もあります。
ですが、見たところ期待は薄いでしょう。
金浜君は正義感に燃えているようで、やる気にみなぎる笑みを浮かべています。三森さんも国王の話を信じているらしく決意に表情を引き締めています。東堂君もやる気満々、といった様子で肩を回しています。
ただ一人だけ、松里家君だけが苦々しい表情をしています。ですが、やはり一人で国王に逆らうのは難しいでしょう。それが分かっているからこその苦い顔なのでしょうし。状況が好転することは無さそうです。
「では諸君、これにて契約は成った。これから我らは一心同体。共に悪しき魔族を打倒し、蹂躙された悲劇の大地に住む人類を解放する戦いに赴こうぞ!」
「ああ、任せてくれ! 苦しんでいる人がいるなら、助けに行く! 当たり前のことだからな!」
「そうだね。大変な思いをしている人がいるんだから、力を貰った私たちが頑張らないと!」
「へへっ、腕がなるぜ!」
「君たちがそう言うなら、僕は何も言わないでおくよ」
国王の宣言に、四人がそれぞれ声を上げて応えます。その後、他の勇者たちも口々に決意を口にします。
かなり、危険な状態ですね。やりがい搾取をされる労働者のような状況です。
「さて。これで話は終わりだが、解散する前に一つ済ませておかねばならぬことがある。我々は諸君の力に期待している。だが、漠然と期待だけ持っていては諸君を適切に導き、必要なものを揃えて援助することも難しい。よって、諸君の力をこの場で見せてほしい」
国王の言葉に、勇者たちはざわめきます。力を見せてほしい。それは、ここで戦ってくれ、と言っているようなものです。
「おっと、済まない、勘違いしないでくれ。戦えというわけではない。諸君のステータスを見せてほしいだけなのだ」
言い直された途端、勇者たちのざわめきが収まりました。
ステータス、ですか。そんなものまであるとは。まるでゲームの世界ですね。