09 中庭での邂逅
「うーん、困りましたね」
私はボヤキながら、王宮内の中庭を歩きます。
シャーリーさんに引き続き、マルクリーヌさんまで勘違いさせてしまいました。多くの女性に言い寄られるのは大変うれしいのですが、今は都合が悪い。身を固めるには早すぎます。
最低でも、まずは工場を成功させなければなりません。私自身が動かなくても、私自身が動くよりも大きな利益を生み続ける仕組みが必要です。
そうなれば、本当にシャーリーさんやマルクリーヌさんを嫁に貰っても問題ないでしょう。自分の時間を持ちつつ、力を蓄え続けることが可能なはずです。
要するに、今のまま成長を続ければ問題ない、ということになります。
しかし、そう上手くいくのかどうかは分かりません。そもそも勘違いが始まりですから、どこでどう話がこじれるかも予想がつきません。
勘違いを真実に、つまり私が本当に皆さんを嫁に貰えば全て丸く収まるのですが。しかし今すぐに、というわけにもいきません。この先、事態が急変しないとも限らないわけです。
となると、解決策として皆さんを娶る、というだけでは済まない可能性もあるわけです。
「しかしまあ、考えても仕方ありませんね」
結局、そうした結論に落ち着きます。私は独り言を呟きながら、何周目かも分からない中庭の徘徊を終えます。
そろそろ応接室に戻りましょう。叙爵式の打ち合わせをする頃合いです。
「おや?」
ふと、視界の隅でなにかが動くのが見えました。顔を向けると、どうやら一人の少女がこちらの様子を伺っているようです。
「どうかなさったのですか?」
私は少女に近寄りながら、様子を観察します。表情が読み取りづらいほど、髪を長く伸ばした少女。見覚えがあります。召喚された勇者たちの一人。確か、名前は七竈八色さん。ミステリアスな外見と特徴的な名前の組み合わせで、よく記憶に残っています。
そんな少女が、何やら私と話をしたそうにしています。何があったのかは分かりませんが、これは好都合。勇者側の人間と繋がりを作る良い機会です。
「何か言いたいことがあるのですか?」
「えっと、あの」
私が問うと、七竈さんはためらいがちになりながらも、口を開きます。
「ついに、迎えに来てくれたのですね! 愛しの人!」
「は?」
そして、突拍子の無い発言についていけず、変な声を上げてしまいます。
「あの、どういうことですか?」
「ずっとお待ちしていたんです。お優しい貴方は、きっと罪を犯した私をいつか許し、迎えに来てくれると信じて!」
事情が全く読めませんね。罪がどうとか、私にはさっぱり分かりません。
「ええと、よく分からないのですが。詳しく教えて貰えませんか?」
「はい! 何なりとお聞きください、愛しの人!」
「まず、その愛しの人というのはなんですか?」
私が問うと、七竈さんは首を傾げます。
「言葉通りの意味です。私にとって愛しい人ですから、そう呼んでいます」
「私が、七竈さんに好かれているのですか?」
「覚えて、いらっしゃらないのですか?」
悲しげな顔をする七竈さん。しかし、何も知らない以上、この子の期待に答えてあげることは出来ません。
「そうですね、覚えていないのでしたら、全て包み隠さずお話しましょう」
「はあ。お願いします」
どうやら、七竈さんの方から事情を話していただけるようです。
「あれは、私が中学三年生の頃でした」
ほうほう。となると、まだ現代日本に居て、この世界に召喚される前の話ですね。面識は無いはずなのですが、私の思い違いなのでしょう。
「根暗で友達の居なかった私は、ある日貴方様が働かれているコンビニでお弁当を買うために立ち寄りました」
まあ、ありうる話です。そこで何かが起こったが為に、恐らく七竈さんに顔を覚えられたのでしょう。
「そして会計を通し、買い物を終えた時でした」
「ほうほう、それで?」
「貴方様は、この私に『ありがとうございました』と、笑顔で優しく言って下さいました」
「まあ、店員ですからね」
「その日から、私は貴方様の優しさに心を奪われたのです」
「えー、さっぱり分からないのですが」
急に話が飛んだので、理解が追いつきませんでした。
「つまり、私はあの日の優しさに一目惚れしてしまったのです」
「そう、ですか」
なるほど。
つまりこの子は、どこかおかしい人なのでしょう。





