08 曖昧な弁明と複雑な誤解
「あー、マルクリーヌさん。その件なのですが、思われているような状況ではありませんよ」
私はマルクリーヌさんの誤解を解くために、どうにか言葉を選びつつ、弁明します。
とは言え、シャーリーさんへの対処が決まって居ない状態であまり詳細な話を広めたくはないので、具体的なことは言えません。
結局、曖昧な言い訳を連ねることになってしまいます。
「実は結婚といいますか、まだそこまでの状況ではないと言いますか」
「は? どういう意味だそれは?」
マルクリーヌさんが眉を顰めます。責められる前に、うまく責任を誤魔化しましょう。
「いえ。別に将来的に結婚するつもりが無いというわけではないんです。ただ、特定の女性を養う上で、まだ私は十分な立場を得てはいませんので。将来的なことを考えますと、状況はいくらでも変化しうるものですし。そうした場合でも、きっちり養うべき人を養える財力、守るべき人を守る権力が得られるまでは、身を固めるつもりは無いんですよ」
私はどうにか、具体的な事情には触れずに自分の状況を説明しました。要するに、この世界で安全を得て、勇者達を保護するまでは結婚できない、という意味です。
戦争の道具となる子供たちや有咲さんを安全に保護するのが優先すべき目標ですからね。だというのに、自分から結婚なり子作りなりをして、守るべき人を増やすのは負担が大きくなりすぎます。
もちろん、私を慕ってくれる方々に対して相応の責任を取るつもりではありますが。最優先ではなく、あくまでも状況が落ち着いてからの話になります。
マルクリーヌさんは私の目標についてある程度把握してくれているはずですから、そうした事情についても察してくれるはずです。
「なるほど、そういうことか」
マルクリーヌさんは何度も頷きます。どうやらご理解頂けたようです。
「つまり、三人に限らず奥方を増やすつもりであると。そこに誰がこれから名を連ねるかも分からない。名誉貴族程度では、例えば私のような貴族に準ずる地位の者を複数人娶るのは難しい。故に、これからさらなる地位向上を図っていく、というわけだな?」
全く理解して頂けませんでした。
困りましたね。こうなると、詳細を話さなければ勘違いを正すのは難しくなります。
私がついに全てを打ち明けようか、と迷っていたところ。マルクリーヌさんはさらに追い込みを掛けてきます。
「そういう事情であれば、仕方あるまい。乙木殿が私を貰ってくれるほどの名士になるまで、待つことにしよう」
何故か、マルクリーヌさんの脳内では自分も嫁になることが確定しているようです。恐らく、私が嫁を増やすために地位向上を図っている、という勘違いが原因でしょう。
何故嫁を増やす為に地位向上する必要があるのか。それは相応に高い身分の女性を嫁に貰う為。そして私の交流関係から言って、一定以上に親しく、かつ高い身分の女性といえばマルクリーヌさんぐらいなものです。
要するに、マルクリーヌさんの解釈間違いは、そのままマルクリーヌさんを嫁に貰うことを意味してしまうのです。
なんともまあ、ややこしい勘違いをしていらっしゃいますね。この誤解を解くのは非常に難しいでしょう。
となれば。私にできることは一つだけです。
「もしもいつか、そういった大切な女性が出来た時は、私から必ず迎えに行きます」
「っ! それは、楽しみだな!」
厄介事は全部後回し。
断言さえしていなければ、後で何とでも言い訳できます。
と、思い込むことで現実逃避をさせて頂きましょう。





