05 新体制
シャーリーさんを引き抜き、私の魔道具店に来てもらうことが決まって約半月。つい先日、実際にシャーリーさんに働いてもらい、様子を見ていましたが、なかなか良好です。
マリアさんには売り場全般を、シャーリーさんには販売計画、企画を担当してもらうことになりました。
売り場については、既に顧客と顔なじみでもあり、ノウハウもあるマリアさんに任せました。一方で、あくまでも商品の売れ行きや利益率等から何を売りたい、何についてはコストを抑えたい、等といった部分はシャーリーさんに考えてもらうことにしました。
初日に一通り必要な知識をシャーリーさんに叩き込んだ後は、実際に店舗で平店員に混ざって現場を経験してもらいました。その上で、マリアさんとは違う視点から経営判断を下してもらいます。
予想もしていなかったことですが、シャーリーさんは恐ろしく飲み込みが早く、翌日には売り場に関する提案を出せるほどでした。
「実は私、情報処理系のスキル持ちなんです!」
と、自慢げに教えてくれたシャーリーさん。ステータス自体は見せてもらえませんでしたが、飲み込みの早さから言ってスキル持ちであることは間違いないのでしょう。
考えてみれば、ギルドの受付嬢はなかなかの激務。多様な仕事をこなしつつ、並行して冒険者を相手に接客もしていたのですから、それぐらいの能力があって当然なのかもしれません。
思い返してみれば、シャーリーさんは専属受付嬢として大量の薬草納品を処理したあと、普段の受付嬢の業務もこなしていたわけですからね。そうした仕事に有利なスキルが無いと、むしろやっていけないレベルの激務だったのでしょう。
逆に言えば、スキルに恵まれているからこそ、普段の受付嬢としての業務に不満足感を覚えたのかもしれません。
何にせよ、シャーリーさんは想像以上の早さで仕事を覚えてくれています。
さらに言えば、三人の連携についても非常に良い状態になっています。
シャーリーさんは自分自身がスキル持ちであり、マリアさんは元A級冒険者の妻。スキルの重要性をよく理解しているからこそ、有咲さんのチートスキル『カルキュレイター』による判断を尊重してくれます。
お蔭で、二人の意見が対立しても、有咲さんが最終判断を下すことで不和を起こすこと無く、しかも素早い取捨選択が出来ています。
実際に三人体制にしてみて分かりましたが、私の想像以上に上手く噛み合っています。
これは、私が工場の方に労力の全てを割ける日が来るのも近いでしょう。
とまあ、そんな話を三人それぞれに話してみました。これからもこの調子で頼みます、という意味を込めて。
すると、三人それぞれから思わぬ反応が帰ってきました。
「上手くいくかもしんねーけどさ。でも、たまにはちゃんと店の方に顔出せよ。アタシら二人で始めた店なんだからさ。おっさんが居なくなると、なんつーか、寂しいじゃん」
と、少しイジケたような様子で言ってきたのは有咲さん。どうやら、魔道具店に思い入れを持ってくれているようです。嬉しい限りですね。
しかも、私が居なくなると寂しいとまで言ってくれました。叔父冥利に尽きます。
「はい。もちろんです。私も、有咲さんの顔を見たいですからね。会いに帰ってきますよ」
「ばっ、ばーか! そういうのじゃねーから!」
有咲さんは顔を赤くして、そっぽを向きます。
我が姪っ子は、やはり良い子で可愛らしいですね。ちゃんと幸せにしてあげたいとつくづく思います。
そして、有咲さんの次に話をしたのはシャーリーさんでした。
「あの、乙木さんは新しい仕事を始めても、魔道具店から手を引くわけじゃないんですよね?」
「ええ。工場の方が落ち着けば、またお店の方に戻ってきますよ。まだまだ店を大きくしたいですからね」
私が言うと、シャーリーさんは安堵したような表情を浮かべます。
「それを聞いて安心しました。なら、私は乙木さんがいつ帰ってきてもいいように、このお店を守り、育てていきますね!」
「はい、お願いします」
「待ってますから。ちゃんと」
そして意味ありげなウインクをしてみせた後、仕事に戻っていきました。